――ご自身の当選が決まった時の心境はいかがでしたでしょうか?
NHKが私の当確を出した時点では、まだ社民党が政党要件となる、全国を通じて2%以上の得票を獲得できるかわからなかったんです。前回は、社民党が何議席を取れるかだけでなく、全体の2%の票数を獲得しなければ歴史ある社民党が国政政党でなくなってしまうという、大きな課題がありました。
社民党がなくなってしまえば、現職も含め、来春の統一地方選挙への立候補を決めている人たちは諸派として戦わなければいけなくなるので、責任重大です。何よりも憲法9条改悪が議論になる中で、社民党は国会に必要だと思っているので、私の当選よりこちらの方が大きな課題だったと思います。
――普段、社民党を支持していない人たちからも、福島さんや社民党が国会からいなくなるのは寂しいという意見も見られました。
「面白くない」「つまらない」ってね(笑)。街頭でも「社民党を残してください!」とよく言われました。私からすれば「残すのはあなたです」と言いたいところですが、そういってもらえたことはありがたかったです。結果として言えば、社民党がなくならなくて本当によかったですね。
――一方で、福島さん以外の社民党候補者は落選してしまいました。その方々に託された票は、いわゆる「死票」になってしまったのでしょうか。
そうではないと思います。前回は「新社会党」の方々と一緒に、「チーム社民党」として護憲の議席を獲得しようと戦っていました。なので、その票は死に票ではなく、むしろ社民党が政党要件を獲得するための、ものすごく生きた一票になりました。
「あなたの給料が安いのは、政治や法律が原因かもしれない」社民党・福島みずほが信じる「政治は希望」の意味
今年7月の参院選で5期目の当選が決まった、福島みずほ社民党党首。一方で、選挙区での当選者がいなかった社民党にとって、彼女が議席を獲得できるかに党の存亡がかかっていた。そんな激動の参院選18日間を振り返ってもらいながら、改めて「一票の重み」について聞いた。
日本には社民党がある
社民党が国会からいなくなるのは寂しい

20代、30代の人たちからの支持

――最終的には2.37%の得票率となり、2019年(参院選比例代表・2.09%)、2021年(衆院選比例代表・1.77%)よりも増やすことができました。その要因をどう分析していますか?
やっぱり社民党が必要だと思ってみんなが頑張ってくれたんだと思います。社民党はずっと脱原発なので、福島県では得票率が4.47%あるんですよ。社民党としても頑張りましたが、脱原発の市民の方たちがすごく動いてくれました。
社民党は古い政党と思われていますが、脱原発や気候危機、ジェンダー平等、選択的夫婦別姓やLGBTQ、同性婚、動物愛護など、今話題になっているテーマに昔から取り組んできた“新しい”政党でもあるんですよね。
前回、特徴的だったのが20代、30代の人たちから「頑張ってほしい」と声をかけていただくことが多かったんです。なにか自分と関連のあるイシューに気づいたときに、実は社民党は昔からやってくれていたんだと再発見してもらえて、そこと繋がれたことは嬉しかったです。
――社民党への票は、政党案件に貢献できたという部分もありますが、選挙全体のシステムで考えると、有権者が「死票」になることを懸念して投票率があがらない側面もあるのではないかと思います。
私は、死に票というものは存在しないと思っているんです。前回の統一自治体選挙では、相模原市の最後の一席が全くの同数でくじ引きに決まりましたし、沖縄選挙区では最後の最後までデッドヒートでした。最終的にはわずか2,888票差でしたから、その一票が辺野古の新基地建設の賛成派を通すか、反対派を通すかの局面を大きく変えたんです。
何十年も掲げてきた政策の実現へ

――確かに、そういった接戦の状況はありえますね。
さらに言えば、「政治は数」とよく言われますが、数でもないと思うんです。自分が投票した人に勝ってほしいって気持ちはわかるけど、馬券じゃないんだから(笑)。国政は大きいし、首長選挙だと一人しか当選しないけれど、自治体議員選挙には何十人か通るから、やっぱり自分の考えに近い人に投票をするのがいいと思います。
6月の杉並区長選では、現職有利と言われるなかで、岸本聡子さんの草の根民主主義や、みんなの街はみんなで作ろうといった主張が、多くの人の心を捉えて流れが変わり、187票差で当選しました。つまり、何が言いたいかというと、選挙に行くことだけが政治じゃない、と私は思っているんです。
1千万件を超える「#検察庁法改正案に抗議します」のツイートに後押しされて、検察庁法は廃案になり、石川優実さんの「#KuToo」運動の広がりで、厚労省のガイドラインも変わります。あなたが日常的に感じている「生きづらさ」をつぶやくことで、政治が変わることは山ほどあるんです。それを信じてほしいし、「政治は変わる」ということは言っていきたいですね。
―――ちなみに、7月の参院選ではNHK党から出馬したガーシー氏も当選を果たしましたが、どう思われましたか?
ごめんなさい。実は彼のことをあまり知らないんですよ。ただ、こっちもSNSに力を入れようかなとは思いました(笑)。
7月、SNSで私のことを「フェミニズムのレジェンド」と紹介してくれている人がいたんです。私は何十年も選択的夫婦別姓だし、ずっとやってきたことだから、自分では発信してるつもりでいたけど、「そうか、知らない人は知らないのか」と思って。
今は、新聞を読む人、テレビを見る人、どこの新聞を読んでいるかで、社会が蛸壺化されていると思います。特にインターネットやSNSは自分の仲間と交流することがほとんどなので、同じような情報ばかりになるじゃないですか。そういった意味では、私たちも発信の方法をもっと工夫をしなくちゃいけないなと思いました。
やっぱり「政治は希望」だと思っている
――これまでは地道にやってきた社民党ではあるけれど、と。
そうですね。ただ、一方で、社民党がどっこい踏みとどまれたのは、SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ)の問題や、給付型奨学金、配偶者暴力防止法(DV防止法)、改正動物愛護法など、これまでコツコツと積み重ねてきたからで、この部分がなければ政党案件の2%は獲れなかったと思います。
社民党が崖っぷちでなんとか残ったことを考えると、「えー、こんな感じで票取れるの?」と思うようないろんなやり方で、学べるところは学びつつ、コツコツやるところはしっかりやっていっていきたいなと思います。
――今は、特に政治を諦めかけている若者世代も多いと思います。最後にメッセージをいただけますか?
杉並区長選の例もありますので、「どうせ」とは思わないでほしいですね。
若い人たちは自己責任の呪いがかけられすぎていると思うんです。非正規雇用も、給料が安いのも、仕事がうまくいかないのも、貧しいことも、モテないことも、すべて自分のせい、みたいな。
でも、あなたの今のしんどさは、政治や法律に由来していることもすごく多いんです。
いや、モテないのは自分のせいかもしれないけど(笑)、それも労働時間が長くて交際する時間がないからかもしれません。それらは、政治を変えることで随分と違ってくるはずなので、決して諦めないでほしいですね。
私はやっぱり「政治は希望」だと思っているので。
撮影/村上庄吾
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