今年の7月26日にザ・ローリング・ストーンズのミック・ジャガーは80歳の誕生日を迎えた。いまだにステージに立ち続け、歌い、踊っていることは驚異である。
日本では一発アウト? 4000人と浮気したミック・ジャガーやナンパ相手を曲モチーフにしたジョン・レノン…スターの名曲に秘められた“不道徳”
海外のロック・スターたちが規格外のパフォーマンスや次々と名曲を生み出す圧倒的なエネルギーの傍には破天荒なエピソードもあった。まるでデタラメかもしれない…でも才能あふれて憎めないロクデナシたちの伝説。本人たちの自伝や当事者の証言をベースに追った『不道徳ロック講座』(新潮新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
『不道徳ロック講座』
ミック・ジャガー「浮気相手は4000人」説

欧米のロック・スターたちの「不道徳」な振る舞いを中心に、豪快なエピソードを集めた拙著『不道徳ロック講座』を執筆するために、筆者は彼らの自伝や公認の評伝など数多くの資料に目を通した。彼らは驚くほど率直に、自身の恋愛遍歴や薬物依存、アルコール依存等について自ら明かしている。
特に恋愛関係は入り組んでいて、「お前の嫁さんは俺の愛人」みたいなことも珍しくない。その入り組んだ相関関係の中で、頂点に立っているのがミックだと言っていいだろう。本人も取材に答えているあたりから、ほぼ公認の伝記といえる『ミック・ジャガー ワイルド・ライフ』(クリストファー・アンダーセン著/岩木貴子、小川公貴訳/ヤマハミュージックメディア刊)という本がある。
本人以外に、友人や家族、元妻、愛人らの証言を盛り込んだ伝記である。この本のオビのコピーはこうだ。
「4000人以上という、ミックの浮気相手に関する新たな事実」
そして同書には、数々の相手の実名が並んでいる。有り余るエネルギーをコンスタントに放出しないと、自分を維持できないのだろう。友人やバンドメンバーの妻や恋人もいる。ファンだろうが家政婦さんだろうが、視界に入る存在に次々と迫る。しかも性別すら問わない。
このエネルギー量を知れば、いまなお現役で活動していることにも納得させられるというものである。そして、この豊富な恋愛遍歴が数々の名曲を生み出す源ともなってきたのは事実である。
ビートルズの酒池肉林、大狂乱ツアー
ミックほどではないにせよ、概してストーンズのメンバーにはワイルドなエピソードが多い。そうしたこともあって、昔からよく言われていたのは、ビートルズがどこか優等生な感じがするのに対してストーンズは不良っぽさが魅力だ、といった説である。
たしかに、ジョン・レノンもポール・マッカートニーも愛妻家のイメージが強い。愛と平和を訴えた曲もある。
しかし、当人たちの自伝や証言を読み返すと、そう単純な話でもないことはよくわかる。
”若気の至り“は十分にあったのだ。
ビートルズのツアーは若い女性たちが熱狂したことで知られる。そのツアー先ではどんなことが行われているのか──。
ジョンは著書『ビートルズ革命』(ジョン・レノン著/片岡義男訳/草思社刊)で次のように振り返っている。
「ビートルズの公演旅行は、フェデリコ・フェリーニの映画『サティリコン』みたいでした」
1969年に公開されたこの映画の舞台は西暦50~60年代、皇帝ネロ統治下のローマ。ネロは暴君で、酒池肉林、淫蕩の限りを尽くしたと伝えられている。
映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』に描かれているが、1962年にデビューしたビートルズがさかんにライヴを行っていた時期は世界のどこへ行ってもすさまじい人気で、大狂乱のツアーだった。

オシッコの臭いが充満していたビートルズのライブ
ビートルズの初期にその前座を務めていたザ・フーのピート・タウンゼンドは、自伝の中で、ショウの後の会場には、尿の臭いが立ち込めていたと証言している。つまりビートルズの熱狂的なファンは若い女性が多く、彼女たちはビートルズを目の前にして興奮し、失禁していたということだ。
そんなファンがライヴ会場やホテルの外に溢れているので、バンドは屋外へ出られない。飲食はホテル内。観光などもってのほか。ずっとホテルにいると、自分たちがどこの街にいるかもわからない。アーティストたちには過度のストレスが生じる。その解消のためにスタッフが女性を集め、ジョンの言うような酒池肉林状態になったのだろう。
アムステルダムで這いまわったジョン・レノン
「当時はまだグルーピーとは呼ばれていなくて、なにかほかの呼ばれ方をしていました。グルーピーが手に入らなければ、娼婦でもなんでも、手に入るものでやっていたのです」(『ビートルズ革命』より)
今でいう「風俗」利用の告白である。まれに外に出られるチャンスに恵まれれば、そこでも狂乱を行った。
「アムステルダムで私が四つん這いになって這いまわった写真があるのをご存知でしょう。娼家から這って出てくるとことか、そういった情景の写真です。そんな私に、人が、〝おはよう、ジョン〟と言っていたりして。警察の護衛つきで、そのようなところへいったのです。派手なスキャンダルをおこしてもらいたくない、という気持ちからでしょう」(同)
おそらくこの種の話はもっとあるのだろうが、ジョンはかなり抑制的に語っている。これには理由があって、この書籍はヤーン・ウェナーというジャーナリストによるインタビューの語り起こしで、現場には、妻のオノ・ヨーコを伴っていた。
いくら20代のころのこととはいえ、妻の前で事実をすべて話すのは気が引ける。ジョンは「ほかのメンバーたちの奥さんも傷つけたくありませんし」と、本心を語っている。

浮気から名曲が誕生した、薬にラリッて名曲が誕生した
ただし、ヨーコと出会う前の「浮気」については率直に語っている。
ビートルズ時代にジョンがつくった名曲の一つに「ノルウェーの森(Norwegian Wood)」がある。タイトルはノルウェー調の家具のことを意味しているとされる。
ジョンはナンパした女の子の家に招かれた。下心たっぷりだったが、かわされてしまい、バスルームで眠るはめになったという歌だ。朝目覚めると、女の子は仕事に出かけてしまっていた。
しかし、この当時ジョンには一人目の妻がいた。シンシアだ。
「妻のシンシアに気づかれずに、ほかの女とのことを書いてみようとしたのです。ですから、非常にややこしい表現になっています。女のアパートとか、そういった、自分が体験したことのなかから書いていたといえます」(『ビートルズ革命』より)
ジョンはプライベートでの体験をどんどん作品に反映させていくことは有名な話だ。二人目の妻、オノ・ヨーコにも多くの曲を作った。
ビートルズ時代の「ジョンとヨーコのバラード」、ソロでの「オー・ヨーコ」「ウーマン」等々をヨーコに捧げてきた。
なお、恋愛だけではなく、薬物体験もまた創作の源になったと語っている。ビートルズ時代の「ヘルプ」は人気絶頂の中、自身の孤独感を歌った曲だ、といった解釈で語られることが多い。実際に本人にそういう気持ちもあったのだろうが、本人はマリファナでつくった、という身もふたもないコメントを同書の中で語っている。
ミックやジョンに限らず、彼らの曲にはこうした私生活が反映されたものは多い。そして、それらは現在の日本の感覚でいえば、かなり不道徳なものともいえる。
日本で週刊誌に報じられたら「一発退場」
おそらく今の日本で週刊誌に報じられたら「一発退場」となりそうなエピソードばかりだ。
「スクープ撮! ジョンがお忍びで通う“特殊なサービス”のお店とは」なんて感じの記事が出て、世間に叩かれるわけである。
それゆえに、海外アーティストの自伝などを読むと驚かされる。
その多くが赤裸々。「えっ、そんなこと活字で残しちゃっていいの?」と心配になるレベルのエピソードが語られているからだ。
おそらくは国や地域によってアーティストという存在の位置付けが異なるのだろう。
どんな分野でも、成功したアーティストは突出した才能を持っている。しかし同時に、備わっている才能と同じかそれ以上に、社会的に欠けているところも見える。
欠けているというよりも、その他大勢の人との〝違い〟といったほうが正しいかもしれない。でも、その違いにこそ魅力がある──こんな考えが欧米ではある程度共有されているのではないか。『不道徳ロック講座』を書きながら、そんな風に思った。
文/神舘和典 写真/Shutterstock
『不道徳ロック講座』 (新潮新書)
神舘和典

2023/7/18
880円
224ページ
978-4106110047
仲間の妻や恋人に次々と関係を迫る。メンバー全員でファンをホテルに連れ込む。薬物に溺れて入院させられる。金に困って万引きをする……現在の日本人アーティストなら「一発退場」にされかねないエピソードを欧米のロック・スターたちは自ら赤裸々に明かしている。ミック・ジャガー、エリック・クラプトン、ジョン・レノン等、デタラメで不道徳、でも才能あふれて憎めないロクデナシたちの伝説を堪能できる一冊。
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