明確なイデオロギーを持たない候補者の集合体
対照的に、「再生の道」の立場は曖昧であった。明確なイデオロギーを持たない候補者の集合体という性質上、右派にも左派にも強く訴求することができなかった。
結果として、最も支持を集めやすいはずの政治的空白地帯、すなわち右派の受け皿としての役割を果たすことなく、どっちつかずの中道路線に留まってしまった。このポジショニングの失敗が、支持の伸び悩みを招いた重要な要因ではないだろうか。
街頭演説の様子からも、この限界は見て取れた。演説会場に集まるのは、その多くが都知事選からの熱心な石丸氏のファンであった。新たな支持層をその場で開拓するには至らず、内向きの活動に終始する傾向があった。
SNS上の支持は熱心で声が大きい一方、その広がりに限りがあった。正直言って、参院選挙中のSNSは、参政党、そして国民民主が圧倒しており、石丸氏の動画は影が薄かった。
個人のカリスマに依存した支持基盤
さきにも触れたように、最大の敗因は、熱狂的な支持の源泉であった石丸氏本人が立候補しなかった点にあり、賛否双方に熱狂を巻き起こした参政党に比べて、刺激が足りなかったということである。個人のカリスマに依存した支持基盤は、知名度のない新人候補者には継承されなかった。
加えて、採用した政治的ポジショニングが現代の政治潮流とずれていた。かつて有効だった中道路線は、右派的な主張が支持を集めやすい現代のSNS社会において、有権者への訴求力を失っていた。具体的な政策の欠如も致命的であった。
「任期制限」や「教育投資」といった理念的なスローガンだけでは、有権者の多様な関心に応えることができず、党としてのアイデンティティを確立できなかった。SNSを駆使した戦略も、初期の成功とは裏腹に、地域での支持拡大には結びつかず限界を露呈した。
石丸氏が試みた壮大な政治実験は、新たな政治参加の形を提示した一方で、選挙で勝利するという現実的な目標を達成するには至らなかった。現時点において、この実験は失敗に終わっていると評価せざるを得ない。
選挙に弱い政党から求心力は失われていくものだ。これから「再生の道」の道を続けるには、石丸氏本人による相当な根気と資金が必要であろう。
文/小倉健一