自分が話しているのは「正解」ではない
彼の言語化能力やトークの面白さも当然ながら、ラッパーとして活躍する側ならではの、批評家ではなく“プレイヤー側”だからこそ感じ取ることができる、作品やアーティストに対するオリジナルな「分析」に、多くのリスナーが興味を持っている。
「イベントで感想や分析、自分のリスナーとしてのヒストリーを語るだけじゃなくて、なにを聴いてどんな部分に影響を受けたのか、そこで自分のラップやCreepy Nutsとしての活動にどう刺激を与えているのかも、ちゃんと形にしたいんですよね。『R-指定はこの人のこういう部分が好きやから、こんなラップをするんや』みたいなことがわかるような内容は意識してます」
そして、そういった「思考」は、現在進行系で自身の作品制作にも繋がっているという。
「自分自身でも、トークイベントの前にテーマとなるアーティストの作品を聴き直して、『やっぱすごいわ』と再認識することも多いし、昔は気づかなかった要素がわかるようになっていたり。そういった分析も含めて、このイベントを通して、理解はもちろん、更に自分のラップのスキルも伸ばすことが出来たと思いますね」
またネットやSNSの発達に沿って、様々な「読解」が目に留まるようになった現状も、ラジオやイベントで「分析」を話しやすくなった一因だという。
「アニメやドラマ、映画みたいな、エンターテインメントや創作物に対して、考察を発信したり、分析を楽しみにする人が増えたと思うし、それがラップにも広がってきていると思いますね。だから、ラップやライミングを考察したり、背景を分析するリスナーが増えたことが、俺の話を聞いてくれるキッカケにもなってるのかなって。
同時に、もしかしたら自分の解説やイベントを通して、分析的にラップに向き合ったり、いろんな解釈をする人が増えたとしたら、それはすごく嬉しいことです。音楽だからフィーリングで、“音”として聴く面白さに加えて、『それがなんで楽しいか』を考えたり、話し合うのも、また楽しいと思うんですよね」
取材・文/高木“JET”晋一郎 撮影/田中健児