ルノアール一筋50年の中で最も苦労したコロナ禍
そんななか、2020年に突如として起きたコロナ禍は、飲食業界に大きなダメージを与えることになった。
さらに昨年は、喫茶店の倒産件数が過去最多を記録するなど、市場環境はより厳しさを増している。それはルノアールの売上にも当然著しく影響を及ぼしている。
コロナ前の2020年3月期には80億円あった売上が、コロナ禍に突入したことで半減し、直近の2021年3月期では42億円にとどまった。
「店を出してなんぼの世界ゆえ、コロナ禍では語りつくせないほど苦労した」と述べる猪狩氏は、苦境に立たされていた時期をこう振り返る。
「コロナによる外出自粛が出されて売上が立たないにもかかわらず、家賃や人件費は払わなければならいない。もう水道の蛇口から水を垂れ流しているような状態で、会社経営どころではありませんでした。私自身ルノアールで働いて半世紀になりますが、その中でも一番厳しさを感じた時期でしたね」
幸いにも、手堅く堅実な経営を心がけてきたことが功を奏し、財務状況は健全だったという。
「ある程度の流動資産を持っていたので、コロナ禍でも銀行から借り入れすることができ、苦難を耐え忍ぶことができたんです」(猪狩氏)
当時、猪狩氏は会長職だったため、現場に対してはあまり介入することはなかった。だが、今まで通りの喫茶店経営では何も変わらず、この先やっていけない。
そうコロナで感じたことから、「従業員の士気を高め、一体感が生まれるように、新しい取り組みを始めた」と猪狩氏は言う。
「毎日、粉をこねるところから始める完全手作りのパン屋『BAKERY HINATA』を、新規事業として2021年9月から始めました。0→1で事業を立ち上げたことで、従業員のやる気やモチベーションが向上したんです。現在は4店舗を展開していて、収益性を担保できるように努めています」