ケガ人を減らすための取り組み
膝前十字靭帯のケガについては、いまだ予防法は確立されておらず、万国共通の解決策はまだないが、さまざまな団体や組織によって進められてきた研究の中には、一定の効果をあげているものもある。
たとえば、国際サッカー連盟(FIFA)は、スポーツ外傷・傷害予防のためのウォーミングアッププログラム「FIFA11+(イレブンプラス)」を紹介しており、日本サッカー協会のウェブサイトで日本語版を見ることができる。このような予防プログラムを取り入れることで、女性アスリートのACL損傷のリスクは45%低下すると、海外の多くの論文の分析に基づいて報告されている。
WEリーグでも、ケガ予防への取り組みは様々で、中にはかなり有効だと思えるものもある。
INAC神戸レオネッサは、昨季開幕から最もケガ(リリースに基づく)が少なかったチームだ。クラブが予防の観点から重視してきたのは、「グラウンド」「移動」「食事」「休息」の4点。
練習環境の変化や移動がケガのリスクにつながると考え、ここ数年は地方でキャンプを行わない方針を徹底。多くのスポーツ選手の怪我の治療やケアをしている神戸大学医学部附属病院のサポートを受け、トレーナーを通じて様々な情報やアドバイスを共有されているという。
安本卓史社長は言う。
「週に1回は筋トレを含むフィジカルトレーニングを取り入れています。WEリーグになってプレー強度もスピードも上がっていますし、男子選手と同じようにトレーニングするのはタブー。チーム関係者は全員が共通認識を持っていて、トレーナーからは毎日、個々の選手の状態のレポートが届きます」
同じくWEリーグで戦うノジマステラ神奈川相模原は、ハードワークとケガ予防を両立させるトレーニングメソッドを取り入れている。4年ぶりに今季から指揮官に復帰した菅野将晃監督の練習はハードなことで有名だが、その最大の目的はケガ予防。同クラブでは、オフ明けの火曜日に「ファルトレク」というトレーニングを行なっている。
「自分が湘南の監督をやっている時(2006年〜2008年)にブラジル人のフィジカルコーチから教わったトレーニング内容をマイナーチェンジしながら今に至っています。室内での筋トレではなく、膝周りを中心に筋肉系をピッチ上のいろいろな動きの中で強化しています」(菅野監督)
その成果は、数字にも表れている。2012年から現在までの11年間、同氏が率いたチームでACLのケガは2人。これはかなり少ない数字である。だが、菅野監督は「成果は長い目で見ないとわからない」と話しており、引き続き動向を見守りたい。