コムギとメルエムの「最後の一局」に隠された秘密
——お話を伺っていると、軍儀というのは想像以上に複雑なゲームなんですね。
将棋やチェスと比べても、圧倒的に自由度が高いですからね。ただ一方で、軍儀を敷居の高いゲームにはしたくなくて。「東ゴルトー共和国では、国民のほとんど全員が軍儀を打てる」という設定があるじゃないですか。それに従うなら、軍儀は子どもでも遊べるゲームじゃないとダメなんです。
そこをどう解釈すればいいのか悩んだ末に、レギュレーションを「入門編」「初級編」「中級編」「上級編」の4種類にわけることにしました。作中では描かれていませんが、もしかしたら東ゴルトー共和国の子どもたちも簡略化したレギュレーションで軍儀を学んでいくのではないかと考えたんです。
——もしかして、「通常版」と「ハイエンド版」の二種類があるのも、同じような理由からですか?
そうなんです。メルエムとコムギは、脚付きの軍儀盤で対局していますが、あんな立派なものを国民みんなが持っているとは考えにくい。きっと東ゴルトーの庶民は、もっと簡素なもので遊んでいるのではないか。そう解釈して、盤台ではなく「軍儀盤シート」で遊べる通常版も用意することにしたんです。
実はこれはあとから気づいたのですが、メルエムとコムギの最後の対局でも、シート状の軍儀盤が使われているんです。あれはつまり、ふたりが最後に過ごした宮殿地下の住宅に備え付けられていた、簡易的な軍儀セットだったのではないでしょうか。それまでは宮殿で打っていたわけだから、しっかりとした脚付きの軍儀盤があった。そう考えると、すごくしっくりきませんか。
——軍儀盤の形状にはまったく目がいっていませんでした……! たしかにそう考えると、すべての辻褄が合いますね。
あくまでも私の勝手な想像ですが「冨樫先生は、そこまで考えて物語をつくっているのか」と驚きました。もしそうだとしたら、人間業じゃないですよ。念能力を使っているとしか考えられません。