原作の描写を手がかりに「ツケ」や「新」を再現
——ルールづくりでは、どんな点にこだわったのでしょう?
作中の描写を守りながら、いかにゲームバランスを高めるか。そこに最もこだわりました。軍儀は縦横9✕9マスの盤に駒を配置し、一対一で対局する将棋のようなゲームなのですが、いくつか独特の要素があります。
象徴的なのが、先ほども触れた「ツケ」です。作中ではツケがあることで、対局を有利に進めるには「立体的な視点が必要」と言及されているのですが、それ以上の具体的な描写はなくて。そこでまず考えたのは「ツケることで駒の移動範囲が広がる」というルールです。将棋の「成り」に近いイメージですね。さらに「取ったりツケたりできるのは、同段以下の駒に限る」というルールも加えました。
——「高い位置にある駒の方が強い」とすることで、軍儀の立体性を再現したわけですね。そういえば、公式の解説動画を視聴して気になったのですが、ツケたあとで動かせるのは、一番上の駒だけなんですね。二段、三段と重ねたまま動かせるものだと思っていました。
そこも今回の商品化にあたって、独自に追加したルールです。というのも、駒を重ねたまま動かせる仕様だと、ツケが強力過ぎてゲームバランスが崩れてしまうんです。それと同時に「ツケたあとで動かせるのは一番上の駒だけ」という制約を設けることで、戦略の自由度を高めたいという狙いもありました。
——と、言いますと?
相手の駒の上にツケておいた自駒を動かすと、どうなると思いますか? 相手の駒が復活してしまうんです。つまり、一度相手の駒にツケたとしても、うかつに自駒を動かすと、いきなり形勢逆転なんてこともあるわけです。
軍儀には、開始時に配置しなかった自駒を自由に盤面に投入できる「新(あらた)」というルールもあるのですが、こちらもゲームバランスという観点から「盤面上の自駒より手前(自陣側)に打たなければならない」という制約を設けています。原作の描写と矛盾のない範囲で、よりゲームとしての完成度を高めるための工夫のひとつです。
いつか藤井聡太五冠にも意見を伺ってみたい
——そういったゲームバランスの調整は、どのように進めていったのですか?
ボードゲームの開発に長けたメンバーが、それぞれの駒の動かし方など、大枠のルールを設定し、あとはチームのみんなで議論しながらゲームバランスを調整していきました。話し合いを重ねるなかで大事にしたのは、「作中の描写を再現できているか」「ボードゲームに詳しくない方でも楽しく遊べるか」といった点です。もちろんルールに破綻があってはいけないので、議論のなかで提出されたアイデアの実現性は、テストプレイを繰り返して検証します。こうした手順を踏んで、ゲームバランスの調整を進めていきました。
——原作に忠実に、かつゲームとしての完成度がそこまで高いとなると、「孤独狸固(ココリコ)や、「中中将(ナカチュウジョウ)」といった、作中の定石も再現できたりするのでしょうか?
もちろん、作中の定石をなぞることはできます。ただそれが、どこまで有効な戦法なのかは、わかっていなくて。たとえば「孤独狸固」は「中中将」で返されると、もう勝ち目がないとされていましたが、コムギとメルエムの最後の対局では、「孤独狸固」を仕掛けた側が「4-6-2忍」と打つことで、再び形勢逆転できると描かれていたじゃないですか。ただしそれが「本当にそうなのか」について、当プロジェクトでは結論が出ていません。コムギとメルエムは、『HUNTER×HUNTER』の世界でも最高峰の打ち手ですからね。彼らが正しいのかもしれないし、もしかすると藤井聡太五冠のような方からしたら、コムギとメルエム以上の解が見えるのかもしれません。いつかご意見を伺ってみたいですね(笑)。