編集長はメディアの顔であるべき?

そのなかのアドバイスにあったひとつがこちら。

「あとはね、編集長はメディアの顔なんだから、これからはどんどん前に表に出ていくこと。とくにウェブメディアはそうだよ」。

ええええ、そんな……。
と、ここでこの雑文シリーズのタイトルについて言及いたします。

タイトルにある「EMANON DAYS」。
このEMANONはNO NAME、つまり〝名無し″という意味の英語を反対から並べたもの、と言われています。欧米の言葉遊びから生まれたともされていますが、多分スラングというか造語というか、そんなものですね。

私がこの言葉を初めて知ったのはサザンオールスターズの「綺麗」というアルバムに収録されていた『EMANON』というナンバーからでした。
当時はその語源など知る由もなく、女の人の名前なのかなー、とトンチンカンな認識で聴いていのですが、とにかくこの曲が、そしてEMANONという言葉の響きが大好きでした。
ひと夏の恋の終わりをさらりと歌ったオシャレすぎるこの曲にすっかり心奪われた高校生の自分……どうして桑田佳祐は好きな女性のことを〝可愛い花のよな″と歌ってくれるんだろうとうっとり……いや、そこじゃなくて、その後〝EMANON″の本当の意味を、社会人になってだいぶたってから知るにいたり、ますますこの言葉が好きになったのです。

EMANON……NO NAME。
だってそれは編集者の座右の銘にも値する言葉だから。

ときに、みなさんは編集者、エディターという職業にどんなイメージを持っていますか?
かつてトレンディドラマで人気女優が演じる編集者は、テレビの中でいつも大きなブランドバッグを颯爽と肩にかけ、朝から晩まで大忙し、でもなぜか髪もメイクも乱れることなくピンヒールで街を闊歩し、せっせと恋もしてたんですけど……ま、そこまで素敵なイメージは持たれてないとしても、ときどき、カッコいい、とか、憧れます、と言われることはございます、畏れ多くも。

ですが、私たち編集者の多くは己のことを〝黒子″〝裏方″〝縁の下の力持ち″というようにとらえているのではないでしょうか。そう、NO NAME、名無しの権兵衛さん。

編集者とひと言でいっても、雑誌、書籍、マンガ、グラビア、ウェブ……担当するメディアやコンテンツが違えば仕事内容は相当違うものだし、会社が違えばまた何かと違うものなんですが、基本的にその根底にあるスピリットは「才能ある人(クリエイター)のサポートを全力でする」ことではないかと私は思っています。

作家が作品を書くときに必要な資料を探しまくって、それを使いやすい形にして届ける。
カメラマンがいい写真を撮れそうなロケーションを探す。
ヘアメイクのインスパイアになるような新製品情報を伝える。
グラフィックデザイナーがデザインを作りやすいよう、的確なコンテを作る。
クライアントに納得してもらえるようなプランを提案する。
……といった実務ももちろんですが、現場スタッフが喜んでくれるおいしいロケ弁、気の利いた手土産、居心地のいい美味なレストラン情報をストックしておくことや、時事ネタや新刊情報、ネットの雑談といった些末なことをとりまとめておくことも非常に大事なことだったり。
そして、こういった作業のどれもが、特別な資格や技術がいるわけではないけれど、じゃあ誰もが出来ることなのか、というとやはりちょっと違うのかな、と思うのです。