あまりに偉大な『ウルトラセブン』
『ウルトラセブン』は『キャプテンウルトラ』をはさみ、『ウルトラマン』に続く番組として企画された作品。1967年から放映され、毎週日曜日の夜、全49話が放映された。
皆様もよくご存じなのであえて説明する必要はないと思いますが、『ウルトラセブン』は宇宙での侵略戦争が激化し、地球も脅威にさらされている近未来が舞台となっています。たんに悪い宇宙人や怪獣と、ヒーローや地球人が戦う、というような単純な話ではありません。
この作品の特徴は、従来の作品の世界観をさらに拡げ、ストーリー、映像、そのヒューマニズムが地球を超えて宇宙にまで到達しているところです。また、ウルトラセブンであるダン隊員と地球人であるアンヌ隊員は相思相愛なのですが、その想いが永遠の別離を超えて遥か大きな次元での実りへと昇華していく点がみごとです。
私がそのような偉大な作品の重要な要素である「音楽」にかかわれたことは、「喜び」というような言葉では表現し尽くせるものではありません。私の人生における「宝物」のようなものです。(第3章 ウルトラセブン)
冬木氏に「セブン」の音楽を打診したのは円谷一監督。監督は、「テレビのこんな小さなフレームでは、宇宙の無限の拡がりは、絵として表現するのはむずかしい。そのフレームからもっと拡げて表現できるのは唯一音楽だけだ。そこをぜひともお願いしたい」と、冬木氏に依頼した。
冬木氏はそれを受けて、どうやって実現するか、日々取り組むことになる。宇宙人や怪獣を音楽でどのように表現するのか。なにもかもが未知。答えは自分で見つけるしかない。
冬木氏が考えた「答え」は、「宇宙人や怪獣も感情を持っていて喜怒哀楽については人間と変わらないのではないか」だった。
見たこともない宇宙・宇宙人・怪獣が出てくるのですから、『ウルトラセブン』にかかわるすべての人が未知のことをやっているわけです。その共通項によって、さまざまな分野のクリエイターと共感できることが喜びでした。宇宙人に会ったことがある人もいないし、もちろん宇宙に行ったことがある人もいない。すべて想像の世界です。
想像の世界のなかで何を作っていくか、何をテーマにするか、どういう方向に進んでいくか、全部自分たちで考えるしかないのです。もちろん意見交換も頻繁に行いましたが、答えはないので、音楽のことは最終的には自分で決心するしかありませんでした。
それがうまくいくとき、それほどうまくいかないとき、それは半々です。想像が何かを生んでくれるときもあれば、何も生み出さないときもあります。うまくいったときはスタッフ一同で嬉しい、うまくいかなかったときは皆で悔しい、そういうことが日々の仕事のなかに良い方向で作用していったのだろうと思います。(第3章 ウルトラセブン)
こうした「セブン」の経験について冬木氏はあらためて「皆で総合的に考えたり、実験的なこともやったりしながら、一緒に仕事ができたことは生涯忘れられない宝」と語る。
『ウルトラ音楽術』では、トータルで185曲にもなったという「セブン」音楽の作曲、録音の工夫や、選曲の発想、主題歌の生まれた経緯、そして円谷英二、実相寺昭雄、飯島敏宏ら監督とのエピソードなどが掘り下げられている。また各話の音楽について、そしてあの最終回のシューマンのピアノ協奏曲についても、もちろんふんだんに語られる。
驚かされるのは、大きな、あまりにも大きなレガシーを残し、後にたくさんの子どもたちが音楽の道に進むきっかけになった冬木氏の仕事には、さらに別の面もあること。
冬木氏は本名の蒔田尚昊ではクラシックや教会音楽の作曲家として知られ、代表曲「ガリラヤの風かおる丘で」は、広く愛される音楽になっている。こちらの分野では「えっ、蒔田さんはセブンの人なの!?」と驚かれるのだそうだ。
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