悲劇のなかに喜劇はある
「日本の芸人が政治に触れないのは、ネタにするような問題がないから」だという指摘を聞くことがある。だが、日向監督は「日本にもアメリカと同じように、貧困や差別の問題はあるが、それらが可視化されていない。私たちの共通の話題になっていないから、笑いに反映されていないだけでは」と話す。
見て見ぬふりをされてきた社会の問題に光を当て、当事者たちに希望を与える村本さんのお笑いだが、彼は使命感から政治ネタをやっているわけではない、と日向監督は言う。「あくまでも面白いから」それを取り上げるのだ。舞台の上で、村本さんは観客にこう叫ぶ。
「不安のなかにこそ、面白いものがある!」
「悲劇のなかに喜劇はある!」
たしかに、厳しい現実を切り取る笑いは、共感にせよ、反発にせよ、見る人の心に強い印象を残す。村本さんの笑いには陰影がある。舞台で輝く姿を見て、もはや彼にテレビは必要ないのだと気づかされた。村本さんは自身の努力によって、新しい表現の場を見つけたのだろう。