「僕だけじゃなくて、みんなにプラスになることをしたい」

──現状に満足せずどんどん大変な方に向かわれると。それは芸人やタレントとしての地位を築かれたからこそ、「違うことに挑戦しなければ」と思われたということでしょうか?

そうかもしれないですね。テレビの仕事も最初は本当に難しくて、どうしていいかわからなかったんです。もう落ち込んで反省する日々だったけど、それでも続けるうちにどんどんできるようになってくる。いまだに全部わかったとは言わないけど、ある程度そつなくこなせるようにはなってきて、そうすると僕にとってテレビがただただ楽しい場所でしかなくなってくる。

これは僕の性格的なものだけど、楽しいだけだと不安になるんです。例えば、友だちと楽しくお酒を飲んでいる時でさえ、トイレに行った瞬間に「何してんだ、俺は……」って思っちゃうような性格なんですよね。こんなふうに楽しく笑ったり夢語ったりして満足してこれでいいのかなって、急に冷めちゃうタイプで。

それと同じで、テレビの仕事は楽しいけど、それだけだと不安になる。だから、映画でも小説でもいいから何か作らないといけないものを一個抱えている方が、心のバランスが取れるんでしょうね。逆に、テレビの仕事がなくて創作活動だけだったら僕はたぶん精神的に参っちゃうはず。だから今がいちばんいいバランスかなとは思いますけどね。

ひとりよがりも迎合しすぎもダメ。劇団ひとりにとって「創作すること」とは?_3

──創作活動はある種趣味的に楽しむこともできると思ったのですが、それだと意味がないということですよね。これまでのインタビューでも、小説も映画も広く届けることを強く意識されているのがわかって。作品を「広く届けたい」と考える背景を伺いたいです。

「広く届けたい」とか「伝わらないと意味がない」というのは、たぶんお笑いをずっとやってきて思ったことですね。お笑いもクリエイティブな作業だから、自分のやりたいことを掘っていくとどんどん難解なものになっていく。それで「こんなにおもしろくて高尚なお笑いをやってるのに、全然通用しない」と悩む。けっこういろんな芸人が1回はそういうところに陥りますね。

かたやわかりやすくて、「こんなの半日もありゃ作れるだろ」ってネタがドッカンドッカンウケてるのを見ると、「あんなもんくだらない」って思う反面、やっぱり自分も認められたい。そういう時期を乗り越えて、今があるわけじゃないですか。だから結局、多くの人に伝わらないと駄目なんですよね。

中には、自分のこだわりを貫くことが大事で、広く伝わらなくてもいいって人もいるかもしれないけど、僕はそういうメンタルは持ち合わせていない。だからやっぱり多くの人に認めてもらって、楽しんでもらいたいんです。「別に誰にも認めてもらわなくたって大丈夫」って本気で言ってるなら、外に向けて発表する必要もないと思うし。

それに、1人でやってるお笑いのネタだったら自分だけの責任だけど、仕事の規模が大きくなっていくとそういうわけにもいかない。映画なんかだと特にたくさんの人が作品作りに関わっていて、現場で寝ずにずっと作業してくれるスタッフ全員の顔も思い浮かぶ。

当然お金を出してくれる会社もある。背負っているものの大きさを思うと、やるからには絶対にヒットさせなきゃ、って気持ちになります。

──多くの人たちの努力を無駄にしたくないと。

もっと具体的に言えば、誰か他の人が映画を作るためにスタッフを探している時、僕の映画のエンドロールで名前が載ってたあのスタッフを呼ぼう、ってことになるのが僕のできるいちばんの恩返しですよね。スタッフの人たちの次の仕事、キャリアにつながらないとあんまり意味がない。

僕だけじゃなくて、みんなにプラスになることをしたい。やっぱり遊びじゃないんでね。だからと言って、世の中に思いっきり迎合したような作品を作れるかと言ったらそれもできない。自分のやりたいことと世間が見たいもののバランスが大事で、まだ勉強中ですね。

──そのバランスはどうやって取っていますか?

映像で言えば、わかりやすいのはキャスティングです。自分の好きな人だけを揃えるとどんどん地味になっていくので、もう少し若い人にも見てもらうのはどうしたらいいか考えて。話の展開も、わかりやすすぎても駄目だしひとりよがりでももちろん駄目。そこは0か1かではないので、やっぱりバランスですよね。