新しい時代に、変わること、変わらないこと
時代に合わせる部分もある中で、変えないものとは何だろうか。
「常連さんを大事にする。マスターが美味しいと思って出していたものは変えない。でも、マスターは変えないだけじゃなかったんですよね。遠方からのお客さんには必ず話しかけていい席に通すし、神保町に新しいお店ができたと聞けばすぐ偵察に行ったり、新しいものに常に興味がありました」
看板メニューの一つのいちごジュースも、最初はマスターが他店をまねて取り入れたものだそう。
「自分たちがいいと思っているものだけで完結してしまうとつまらないですから、僕もプラスの提案はしていきたい。でも、新しく何かやろうと思うと意外ともうマスターがやっていたりするんです。店をイベントスペースとして貸し出してみようかと考えると、マスターがもう検討していたりして」
コーヒー豆やグッズの販売など、少しずつ伊藤さんの色も出始めたさぼうる。コロナと人手不足を理由にしばらく休業していたが、4月5日から営業再開し、待ちわびていたファンが行列を作った。
「本来は行列ができるような店ではないですから、常連さんも新規のお客さんも大事にしながら、小ぢんまりやっていくのが理想です。最近若いお客さんも増えましたが、またいつか思い出して再び訪れたくなるような場所でありたいですね」
謙虚に語る伊藤さんだが、「あ、それと」と顔をほころばせた。
「また夜も盛り上げたいですね。うちはお酒もつまみも出すし、夜は騒がしい店でした。飲んでいると人が増えてくるから気づけば4人席に6人も7人も集まっていたりして。コロナの影響は免れないでしょうが、あの熱気をまた感じていただきたいですね」
記憶に残るいつも変わらない老舗。でも、常に少しずつ新しく変化している。そんな風にしてさぼうるは引き継がれ、今度は伊藤さん夫妻の店になっていくのだろう。
取材・文/宿無の翁
撮影/近藤みどり
編集/一ノ瀬 伸