「例えばですけれど、中目黒の九〇坪の角地、一階は店舗、上の階にオフィスを入れたいというオーナーがいるとします。ではどんな風な建物をつくりますか、という課題を出すとします。すると資料に当たった上で、先生、正しいのはどんな建物ですかと聞いてくるのが多い。正解を求めてくるんですね。ぼくはそうした学生たちの思考を揺さぶるんです。それで、あっ、こんな感じかも、と(いいアイデアが)出てくる場合もあれば、そうでないのもいる」

建築に言葉は必要か? 建築家・竹山聖氏に訊く_3
東京・中目黒にあるOAK BLDG Ⅱ。4階建て、1階にカフェとフルーツサンド店、2階以上が事務所。2020年竣工。写真/竹山聖(『kotoba』)
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学生と向き合う中で、心理学者レフ・ヴィゴツキーの「インナースピーチ」という考えを思い出したという。

言葉は他者との対話、コミュニケーションのために獲得されたとされている。しかし、むしろ、自分自身との対話、自分自身の思いを広め、深め、確認していく役割がある。自分の思い、考えを形づくった上で、他者と共有し、発展、発達していく。

〈学生の案やスケッチもまた、建築的に見ればこの「インナースピーチ」のようなものだ。それはまだ他者と共有されない未熟な表現形なのである。なにかモゴモゴと、定かならぬ言葉の発芽状態のようなものが蠢いている。文法も発音もデタラメなことが多い。しかしそれが建築的に見て未熟だからといって否定してしまっては、せっかく目覚めた空間構想の喜びを摘んでしまうことになる。豊かなアイデアへと育っていくかもしれない可能性を潰してしまう〉

インナースピーチとは、やがて他者に伝わる言葉となる可能性のある「苗床」であると竹山は考えている。

建築こそ、はじめに言葉ありき、なのだ。

文・構成/田崎健太(ノンフィクション作家)

京大建築 学びの革命
竹山聖
建築に言葉は必要か? 建築家・竹山聖氏に訊く_4
2022年11月25日
2,420円(税込)
四六判368ページ
ISBN:978-4-7976-7422-4
驚きと喜びの建築に向けて。
一人の若手建築家が京大に着任。教師としてはなはだ未熟な若者が、さらに未熟な若者たちとさまざまなことにチャレンジする。何より、「教える、学ぶ」という人間の根源的な姿勢を通して、お互いに切磋琢磨。28年にわたる歴史の証人(学生)たちとの対話を、言葉を、事件を、その顛末を記す。建築の驚きと喜びを伝える、建築思考の入門書。

「振り返ってみてつくづく感じたのが積み重ねた時間の重さ、そしてその間の出会いと学びのありがたさだ。素晴らしい学生たちと出会い、多くの建築家や社会で生き生きと活躍する人材が出てくれた。自由に活動する個人もいれば組織を引っ張る頼もしい連中もいる。そして私自身がほんとうに多くの刺激を受けた。学んだといってもいい。竹山研は、決して師から弟子への一方通行の場ではなかった。」(序―「庭」というイメージ より)
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