パーソナルな心情をどうお客さんに伝えるか…
試行錯誤のなか見つけた“ポップさ”
――2013年の『スーパー劣等生』から、2019年の個展『ガズラー』に至るなかで、より観客のことを意識するようになったということですが、それはどういった部分なのでしょうか。
『ガズラー』は、英語で“がつがつ食う・がぶがぶ飲む”という意味があり、長年周囲へ打ち明けられなかった摂食障害をテーマにした個展でした。
ある意味、この個展を通して見にきてくださった方に自己紹介をする側面も強かった。でも、摂食障害の概要は本やネットで検索すればわかることです。
それに個人差があるものなので摂食障害とはこういうものだと知ったように説明することはしたくなかった。個人で伝えられることは摂食障害と共に生きる“心情”でした。
でも、それをそのまま晒しても暗くなってしまってつまらないし、伝わらない。
なので、ポップな“がずちゃん”というキャラクターを産んで、そのキャラクターが歩んでいく絵本のような一本の筋をつけることで、感情を共有してもらうことを思いついたのです。
普段はやわらかく表情豊かな“がずちゃん”が、自身の不安に呑まれると個展のタイトル絵でもある怪物『ガズラー』に変化してしまう、個展中盤の一枚絵を通して、見にきてくださった方にがずちゃんの感情の波を追体験してもらう構成の個展にしました。狼人間のような感じです。
――“ネガティブさ”と“ユーモアさ”のバランスは、光宗さんの持ち味という印象があります。
これは私が絵を描く時の好みでもあります。『ガズラー』の時が顕著でしたが、ネガティブな心情を伝えるならポップさのある絵が良いし、その逆も然りです。映画などでも、悲しいシーンで演者さんが大号泣しているより、無理して少し微笑んでいたりするほうが印象的というか、そういう感覚です。
――『スーパー劣等生』、『ガズラー』、そして2021年の『メロンタ・タウタ』も自分をどう捉え直すかというパーソナルな部分がキーでしたよね。
『メロンタ・タウタ』では、自分自身を船や部屋に例え、そのなかでさまざまな考えの生物が混在して共生している状態だと捉える作品や、初めて私の趣味嗜好を元にUMAをテーマとした展示になりました。
自分のことばかりだった視野が広くなり始めた真っ最中の展示だったように思います。