菊池剛さんとのユニット、Bialystocksの活動は、本来自分の持っているリズムとは違うことへのチャレンジ。
──青山監督が大学の打ち上げのカラオケで甫木元監督の声を聴いて、君は映画も音楽もやれといったのがミュージシャンへと向かう第一歩になったとも伝わってきています。来る11月30日には菊池剛さんと二人で組んでいるバンド、Bialystocksでメジャーデビューとなり、昔から映画監督として応援してきた私としては、この展開を驚いてみているのですが、ここからせっかくなのでここからは菊池さんも交えて、『はだかのゆめ』の映画音楽と、音楽活動を伺えればと。
ここでちょっと説明しますと、Bialystocksの結成は、甫木元監督の『はるねこ』の上映時、イベントとして劇中歌を甫木元さんが自身で歌うという催しの時に、友達の友達であった菊池さんに声をかけて、バンドサウンドにアレンジしなおして演奏したのが最初と聞いています。甫木元さんの作る曲は、宮沢賢治の作詞・作曲の「星めぐりの歌」的なというか、合唱団を運営されていたお母様の影響から朗々と歌う曲が多い印象ですが、ジャズピアニストとして活躍されていた菊池さんと組むようになり、アレンジにジャズやソウルやR&Bの要素が加わり、グンと広がったと思うのですが、甫木元さんの「触れたいのに触れられない」「和えたいのに会えない」というもどかしさを音として表現されるのに工夫されていることは?
菊池剛(以下、菊池) 「あんまり歌詞の内容を意識しすぎないようにしているんです。歌詞とサウンドが合ったら合ったでいいし、合わなかったら合わなかったで、そこから特異なものが生まれてくることがあると思うので、本当にコンセプト段階ではほとんど歌詞のことは考えていなくて、もうメロディとサウンドをというのを大事にしていますね。最後に質感を整えていくときに、少し、主題を意識する、そういう感じですね」
──2021年にリリースされた『ビアリストックス』の中の『I Don’t Have a Pen』の流れるようなピアノの前奏を聞くと、ピーター・アンダーソンやエルダー・トリオをいつも思い浮かべるんですけど、ああいった速弾きのジャズピアニストは意識されていますか?
菊池 「いやあ、僕は、速弾きはそんなに意識しているわけでは……」
──そうでしたか。
「僕はフランク・シナトラが大好きで、ゆったりしたメロディも好きなのですが、このバンドで言葉が早いような曲を作ってはいるんですけど、それも普段自分があまりやらないからという意味で、Bialystocksではチャレンジで作っているという感覚があります」
──『灯台』もそうですけど、『I Don’t Have a Pen』はハイトーンでありながら超絶早口曲で、甫木元さん、いつもライブで思うんですけど、あれ、どこで息継ぎしているんですか?
甫木元「結構、してますよ。合間、合間に(笑)」
菊池「『I Don’t Have a Pen』は寿限無寿限無の呪文のような歌ですよね」
甫木元 「さっき菊池が言ったように、僕の本来持っているリズム感とは違う曲に挑んでいるので、それは毎回、チャレンジというか、やったことがないから面白そうだなと思いつつ、毎回、できずに苦戦しています。もっと早く歌える人もいるし、もっとラップ的にうまく韻を踏んで歌える人はいると思うんで、そういった中で自分ができることは何だろうなと思いながらやってますね」
──『はだかのゆめ』の映画音楽でいうと菊池さんが出演されている壮大なススキの群生のある草原に流れているピアノだけの曲が猛烈に好きで、眠れない夜はあの曲が入った予告をエンドレスに聞いてしまうのですが、あれは一曲のインストゥルメントになっているんですか?
菊池「いや、あの曲は、映画で流れるあそこだけしかないです」
──素晴らしいメロディなので、あれを一曲にしてほしいです。
菊池「やってみたいなと思いつつ、いまのところは、やっていないですね」
──劇中、ノロがいるときの風景に流れる曲と、母親がいるときの音楽に大きな違いがありますが、どういう打ち合わせで構成されたんですか?
菊池「甫木元から早い段階で、ノロと母親のいる場面で、ここはこうしてほしいと指定があって、そこから作っていきました」
甫木元「ノロがひとりでさ迷っている場面は、新しく菊池に作曲してもらった部分が多いですね。ノロがおんちゃんや、母親と交わるところは、元々、Bialystocksで歌っていた曲を使っています。ノロがいるところはピアノの曲が多いんですけど、それは自分がちっちゃい頃から、ピアノ教室をしている母親のピアノを聴いていたので、本当にその場所で、どっかから聴こえてくる、たまたま流れてきたぐらいの音楽の在り方でもいいのかなと思っていました。近所の近くの子供が練習しているぐらいでもいいかなと、そこからピアノをメインで組み立てることをしたというか」
──四万十の川や、高知の海など、水辺の映像が多いので、サウンドからも水の音を勝手に受け取ったのですが、そういうことも意識されて?
菊池「いや、特に意識していませんでしたが、そう受け取っていただけるとありがたいです」
甫木元「Bialystocksって、菊池の曲ありきで作っていて、詩先行で作ったことはまだないですね。曲を聞いて、そこにはまっていく歌詞を探っていく感じで」
──甫木元さんが発掘して、つけた歌詞に菊池さんがダメだしすることはあるんですか?
菊池「テーマについては任せていますけど、音の面やリズムの面では細かくします」
甫木元「流れをあえて止めたり、あえて、音と言葉がはまっていなかったり、うまく流れるようにここは言葉を入れた方がいいと、結構明確に指示をもらって作っていく感じですね」
──休符を効果的に使って、緊張感あるサウンドも多くて、ライブではどきどきするんですけど。
菊池「なんでかな、そういうのが好きだからかな(笑)」
──良く、ライブで日本の音楽シーンやバンド状況を知らなくて、バンド仲間を作りたいと話されていますが、自分の座標軸を確認してしまう、意識するバンドはいますか?
甫木元「それは、死んじゃった人の方が多いかもしれない。小さい頃から聞いている曲で、改めて今、聞いたらどうなんだろうなと、自分の目指している場所というよりかは、自分の感覚がどう変化していっているのかを再確認して聞くことの方が多いかもしれません。ベタですけど、ビートルズとかザ・バンドとか、僕が小さいときに父親が聞いていた映画のサントラとか、その辺のレジェントですね」
菊池「僕は、曲を作るとき、たまにスティービー・ワンダーの曲と比べて、落とし込む作業をしますね。サウンド的には違うかもしれないですけど、メロディの作り方については直接的に影響を受けているといえるかも」
──メジャーデビューとなるアルバムにはコンセプトはあるんですか?
甫木元「今回に関してはあまりなかったですね。今まで通り、曲を作ってはお互い出し合って、メロディがいいものを選んでいくという。あまりひとつのコンセプトを持ってという感じではなく」
──LEEの読者に一押しできる曲があれば、ぜひ聞きたいのですが。
甫木元「実は僕たち、自分たちのファン層もどういう方たちなのか、まだ全然わかっていないので、おすすめするものもわからないのですが、なんだろう……菊池さん、何が合うかと思いますか?」
菊池「まだ生まれていない曲もあって、今日もこれからスタジオで収録なんです(※取材日は10月26日)。なので、自分たちのアルバムがどう終着するかもまだ把握できていないんです」
甫木元「そういう意味で、一番昔からあって、前作のEPにも入れようとしたけれど、でも、今じゃないかなと温めていた曲として『日々の手触り』から聞いていただくのがいいかもしれません。日常から地続きにある曲で、『はだかのゆめ』ともクロスする曲だと思います」
──最後に、甫木元監督に聞きますが、『はだかのゆめ』の初号試写のとき、過去と向き合う作品はこれで終わるかも、という話をされていましたが、違うビジョンがありますか?
甫木元「たまたま続いちゃったことで、父親と母親を映画で弔うじゃないですけど、家族の弔ということに関しては、これでおしまいになるかと思います」
はだかのゆめ
四国山脈に囲まれた高知県、四万十川のほとりに暮らすある一家の物語。若くして両親を亡くし、高知県で祖父と暮らす甫木元空監督の体験をモチーフに、祖父、母、孫のノロの3代にわたる時間と、境界線を飛び越えた触れ合いを描く。四万十の火振り漁、愛媛、香川、徳島との県境となる天狗高原など、高知の圧倒的な風景と、Bialystocksの音楽が奏でる映像詩。第35回東京国際映画祭NIPPON CINEMA NOW部門にセレクトされた。
監督・脚本・編集:甫木元空
出演:青木柚 唯野未歩子 前野健太 甫木元尊英
プロデューサー:仙頭武則 飯塚香織
撮影:米倉伸 照明:平谷里紗 現場録音:川上拓也 音響:菊池信之 助監督:滝野弘仁
音楽:Bialystocks 製作:ポニーキャニオン
配給:boid/VOICE OF GHOST
2022年/日本/カラー/DCP/アメリカンビスタ/5.1ch/59分
©PONY CANYON
★11月25日(金)より渋谷シネクイントほか、全国にて順次ロードショー公開
デビューアルバム『Quicksand』特設サイト
撮影/山崎ユミ