「本屋の店主のイメージは?」と聞かれたときどんなことを思い浮かべるだろうか?

「もの静か」「優しそう」「頭が良さそう」そんな言葉が出てくるかもしれない。しかし、実はそれだけではない。本が売れないと叫ばれて久しいこの社会で、果敢にもひとり、店を立ち上げたのが独立書店の店主だ。表からは見えにくいかもしれないが心の中には熱くたぎる情熱がある。200店以上もの本屋店主の話を聞いてきた筆者からすれば独立書店の店主は例外なく面白いと断言できる。今回、紹介したいのはその中でも特に個性が強い店主とその店だ。

人生相談まで受ける店主の不思議な魅力

一店目は知る人ぞ知る予約制古書店「なタ書」の店主・藤井佳之さん(45)だ。場所は香川県高松市。南新町商店街の横道にある。トタンの壁と溢れる緑。「古本」と看板に書いてはあるが本当に入っても大丈夫かと不安になる。

人生相談、写真集オタク、バイク野郎……個性派店主が営む独立書店オススメ3選_a
「な夕書」の外観(本人からの写真提供)

恐る恐る扉を開け、階段を登ると、空中を走る本棚。床の中の本棚。流れるようなうごめく本棚。アミューズメントパークのように不思議な本棚がそこかしこにある。その中にある大量の本・本・本。情報量に圧倒されていると奥にいる藤井さんが「どうも」と出迎えてくれた。片手には缶ビールのロング缶。取材時は朝の10時である。まさかの対応に驚いた。だが決してだらしないわけではなく、「取材で緊張しているから」とはにかみながら、このあとしっかりとお店のこと、ご自身のことを話してくれた。面白かったのが他の仕事をもっとしたいと話していたことだ。

「予約が入っていない時間はティッシュ配りとか他の仕事もしていて。そうすると書店の仕事が本当に良いものだと感じられる。だから他の仕事をもっとしたい」

どこまでが本心かわからない。気がついたら藤井ワールドに飲まれてしまっていた。

人生相談、写真集オタク、バイク野郎……個性派店主が営む独立書店オススメ3選_b
「な夕書」の内部(本人からの写真提供)

夜に店に行けば高松案内もしてくれる。古着屋、飲み屋、うどん屋……。路地裏の、観光では決してたどり着かないような店を教えてくれる。取材の日も案内してくれたが、早足で夜の街を進む後ろ姿についていったのは良い思い出だ。ただ、その日はたまたま最後の目的地の食堂がお休みで、何を思ったのか藤井さんから「原稿があるからここで」といきなり夜の街に置いていかれたのには困った。藤井さんが紹介してくださった初対面の女性2人と同行の写真家、筆者の4人で「え……」と呆気に取られてしまったものである。ちなみにそのあと4人で居酒屋に入り親交を深めたお陰か、1人はいまでも下北沢にある筆者の店に遊びに来てくれる。ありがとうございます。藤井さん。

人生相談、写真集オタク、バイク野郎……個性派店主が営む独立書店オススメ3選_c
「な夕書」店主の藤井さん(本人からの写真提供)

このように大雑把なのか丁寧なのか分からない、でも惜しまず与えてくれる……謎の妖怪みたいな捉えどころのない存在なのである。だからなのか何なのか、予約して訪れたお客さんが人生相談をすることもよくあるという。自分の力ではどうにもできない状況を妖怪の力でどうにかしてほしいということだろうか。謎は深まるばかりである。

【なタ書】
住所:香川県高松市瓦町2-9-7 2F
TEL:070-5013-7020
完全予約制
https://www.facebook.com/natasyo/
https://twitter.com/KikinoNatasyo