「10枚500円」は露店の2倍以上の価格
神の使いと呼ばれ、天然記念物として手厚く保護される奈良公園の鹿。観光資源としても大人気で、公園内にある春日大社を訪れた参拝客などが名物の鹿せんべいを与える様子は奈良の風物詩となっている。
その鹿せんべいを売る露店が今、存続の危機に脅えているという。いったい、なぜ⁉
きっかけは10月24日に公園内に「I LOVE シカ自販機~鹿への贈り物~」と命名された2台の自販機が設置されたことだった。
鹿せんべい(10枚200円)を売ることができるのは、「奈良公園行商組合」に登録された公園内の露店や茶店、土産物屋のみ。鹿せんべいの品質(米ぬかと小麦のみで製造し、着色料や糖分などをいっさい含まない)を保持し、売上の一部を鹿の保護活動に充てるためだ。
ただ、露店などの営業は午前9時から午後4時頃までで、それ以外の時間帯に奈良公園を訪れた観光客が鹿せんべいの代わりにポテトチップスやフライドチキンなど、鹿の健康に害をもたらす食べ物を与える行為が問題となっていた。
そこで鹿を保護する一般財団法人「奈良県ビジターズビューロ」など5団体が飲料メーカー・ダイドーの協力を得て、露店などの営業時間外でも鹿せんべいを購入できる自販機の設置に乗り出したのだ。
露店より大幅に高い10枚500円という価格設定にもかかわらず、売れ行きは好調。
「自販機にセットできる鹿せんべいは26個。それが一日で売り切れ、毎日補充に追われる状態」(ダイドー担当者)だという。
これに不安を感じているのがこれまで独占的に鹿せんべいを売ってきた80名ほどの露店のおばちゃんたちだ。
なにしろ、相手は雨の日も風の日も24時間黙々と鹿せんべいを売る機械。鹿の健康被害を防ぐための措置とはいえ、露店の売り上げ減になりかねない。おばちゃんの一人がこう不安を口にする。