生活習慣病や精神領域で活用
では、具体的に治療用アプリはどのような医療分野で活用されているのか。
佐竹氏によると、治療用アプリが本領を発揮するのは薬物療法や手術では対処しきれない、患者の行動変容分野だという。
たとえば、CureAppが提供するサービスの1つ「高血圧症向け治療用アプリ」を例に挙げよう。同アプリは2022年4月に薬事承認され、同年9月から保険適用が開始された。高血圧症については、欧米を含めて治療用アプリが薬事承認・保険適用された前例がないため、同社のサービスが世界初の実用化事例となる。
「高血圧症は、降圧薬という飲み薬で血圧を下げるのが一般的に知られた治療法です。しかし、この薬物療法には2つの課題があります。まず、一度薬を飲み始めると、多くの患者さんは一生飲み続けなければならないということ。薬を飲んでいる間は血圧を下げられますが、飲むのをやめるとまた血圧が上がってしまうからです。毎日欠かさず薬を飲まなければならない状況に抵抗感を持つ患者さんも少なくありません。もう1つの課題は、毎日薬を飲むことでトータルでの医療費がかさむことです。何十年も飲み続けると、人によっては医療費の総額が100万円を超えることもあります」
高血圧症をはじめとする生活習慣病の多くは、生活習慣の乱れが原因となって発症する。つまり、生活習慣を健全に保てるなら、薬に頼らなくても症状を抑えられる可能性がある。実際のところ、高血圧治療におけるガイドラインにも、「降圧作用の増強や投与量の減量につながることが期待できるため、生活習慣の修正は、全ての高血圧患者に対して指導すべきである」と位置づけられている。
もっとも、多くの人は急に生活習慣を正すことができない。また、医師としても短い診察時間で患者の生活習慣まで改善するのは難しい。
そこで役立つのが治療用アプリというわけだ。
「生活習慣指導が望ましいと診断した患者さんに対して、医師がアプリを処方します。具体的には、アプリを使用するために必要な“処方コード”を患者さんに渡すのです。患者さんは自身のスマートフォンに指定のアプリをダウンロードし、処方コードを入力します。これで、治療用アプリが使えるようになります」(佐竹氏)
高血圧症の患者は、自宅で毎日血圧を測定する。その数値に加えて、日々の生活についてもアプリに入力する。そうやって蓄積されたデータをもとに、医師が適切な生活習慣指導を行うというわけだ。「自宅で医師の指導を受けられるようなイメージ」と佐竹氏は説明する。
前述したように、治療用アプリは保険適用が可能だ。正確にいえば、アプリそのものが保険適用の対象になっているのではなく、「患者が治療用アプリを活用し、医療機器を用いて医師の指導を受ける」という一連のプロセスに対して保険が適用される。その結果、患者の自己負担額は月額2,500円程度に抑えられる。治療用アプリは、身体的にも経済的にもメリットが大きい治療法だ。