人間的に大きく成長していったスター
日本の映画ファンはスターを見つけるのがとても早くてお目が高いので、『テルマ&ルイーズ』(1991)のときすでに、端役で出演していたブラッド・ピットの美しさが話題になりました。世界的に注目を集めるようになったきっかけは、やっぱりロバート・レッドフォードが監督した『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992)でしょうね。
モンタナの大自然の中で成長する若者の心情を描いていて、流麗なカメラワークと相まって、心が揺さぶられる物語でした。ブラッドはルックスもピカイチだけど、あのナチュラルな演技ができるのは感受性が豊かな証拠。レッドフォードをはじめ、先生になる映画人も周りにいっぱいいたんだと思います。
私が初めて彼に会ったのは、『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(1997)で来日したとき。取材でうまく質問に答えられず、不安そうな目で私をチラチラと見ていたことを覚えています。今でもブラッドは「あのときは戸田さんに助けてもらった」と言いますけど、それほど、スターの地位に戸惑っている初々しさがあったんです。
そんな彼が、今では非常に優秀な製作者として知られています。これまで通訳としていろんなハリウッドスターを見てきましたけど、ブラッド・ピットほど人間的に成長していくのを目の当たりにした俳優はいません。