30時間の練習を達成し思った「やっと解放される」
――直近のRTA in Japan Summer 2022では惜しくも目標の1時間切りに届きませんでしたが、やはり1時間は高い壁と言えるのでしょうか?
マリオオデッセイのRTA競技人口はだいたい3000人くらいいるのですが、1時間を切ると世界ランキングの上位50〜60位に入れます。
1時間切りが初めて達成されたのは2019年3月24日。マリオオデッセイの発売から半年くらいあとですね。ちなみに、私が1時間切りを達成したのは翌日の25日のことでした。
――世界で2番目に1時間を切った人……!
あと1日早ければ世界初だったので、惜しかったです。
現在の世界記録は56分55秒。ちなみに、はじめて58分切りが行われてから今の記録が達成されるまで、20ヵ月かかっています。1時間切りが行われてからだと35か月ですね。1分を縮めるのがどれだけ大変か、伝わるでしょうか?
――途方もないですね。突き詰めると、マリオオデッセイのRTAはどこまで早くなるのでしょうか?
理論上は55分切りも可能とされています。理論上とは、現時点で判明している短縮要素をすべて、ミスなく完璧に行うことで達成できるという意味ですが、人間には実現不可能だろうというのが正直なところですね。
極端な話、成功確率が1%もないのに短縮時間が0.1秒にしかならないようなプレイをずっと続ける必要があります。ミスした場合のロスを考えたら普通は採用できません。
今回のRTA in Japan Summer 2022で僕が終盤に挑戦したプレイも、人類が安定して成功させるのは難しい部類といえるでしょう。
――動画にもあった、クッパが壁を駆け上がるプレイですね
本来なら、進路を塞ぐ壁の中に用意された通路をぐるぐると回りながらのぼっていくのが正規ルートなのですが、実は壁の外側に足場判定があるんです。その足場をジャンプして辿っていくと、壁の中に入らずに外から無理矢理先へ進むことができる。しかし、この足場が見えないうえ判定が非常に小さい。
もう、練習しようがないんですね。成功時と失敗時で何が違ったのかさえわからないんですから。
何百回かに1回、偶然成功したときの感覚を頼りにスティックを倒す角度やジャンプのタイミングを覚えていくしかありません。
――気が遠くなりそうです
ひたすら壁をのぼるだけで、合計30時間以上は練習しました。練習中は投げ出したくなるほど辛くて、ある程度できるようになったときは達成感よりも「やっと解放される、もう練習しなくていいんだ」という思いのほうが強かったですね。