「髭」が「鼻毛」になったワケ
もうひとつの特徴は、身体の部位の名字である。「目(さっか)」さんは職業由来で、古い時代の役人(国司)のお仕事をされていたことからつけた名字。顔の部分では「口(くち)」「鼻(はな)」「耳(みみ)」。「髭(ひげ)」さんもいて、これにまつわる話が興味深い。
ヒゲは口の上に生えていても、下に生えていても、どちらも「髭」と書く。ところが「髭」さんの中には、「うちのヒゲはあごヒゲやなくて、口の上のヒゲや!」という人がいて、髭(はなげ)と名乗っていたそうだ。しかし、それでは他の人からは「はなげ」とは読んでもらえないので、文字を「鼻毛」に変えたとのこと。以前、関西のテレビ番組で「鼻毛豊(はなげ・ゆたか)」さんという方を紹介したことがあるが、いやはや立派なお名前である。
「鼻毛」「鯛」「東京」……実在する大阪の珍名の由来とは?
首から下にいくと「指(さし)」「左手(さて)」「腰(こし)」「爪(つめ)」などなど、大阪府南部には全身の部位の名字を持つ方がが点在していて、堺市には「毛穴(けな)」という名字まで! どうしてこんなことになったのか解明したくて、お一人ずつ会いに行き、早く、謂われを調べたいと思っている。
さて、大阪府の北部のお話も少しだけ。大阪城から北には、魚の名前の名字の方が多い。「鯛(たい)」「鰯(いわし)」、「鱸(すずき)」「鰡(ぼら)」「蛤(はまぐり)」など、まるで魚屋の店先のよう。大阪は漁業もさかんだったことから付いた名字も多いと思われる。おそらく、大阪でとれた魚を大阪北部を通って京の都に運んでいたのではないだろうか。鯛の天ぷらを連想する「鯛天(たいてん)」という苗字も、鯛を天皇に献上したことが由来ではないかと思っている。
最後に、岸和田市のとっておき名字を。なんとその名は「東京(とうきょう)」さん! 以前、私が調べたときは岸和田市に1軒だったこの方は、もともと「江戸」という名字だった。何らかの理由で大阪に移り住み、明治維新で江戸は東京に。名字を届けることが義務化されたときに「東京」と改めたとのこと。
大阪の名字を眺めていると、商業の町として栄えてきたのだなと感じられるし、洒落好きで、持って回った表現よりもわかりやすさ重視なのかな、と思われる。
取材・文/工藤菊香 写真/共同通信