立地、建物の構造を見ても他とは一線を画す

アイドルにとっても武道館が特別な場所だという印象になったことはわかったが、森氏いわく「その立地にも注目すべき」とのこと。

「私はハロー!プロジェクト(ハロプロ)メインで遠征に出かけておりまして(笑)、さまざまなライブ会場を訪れましたが、やはり武道館は特殊な場所にあると感じますね。

第一に東京のど真ん中の立地である北の丸公園内にあるので、存在自体が非常にシンボリックです。そして、入場する際には江戸城の遺跡を通る必要があるため、歴史と伝統の場に足を踏み入れるという通過儀礼的な側面もあるかと。

『推し武道』の原作漫画でもChamJamのメンバーが武道館(ただし、実際に訪れたのは東京武道館)を訪れて感慨にふけっていましたが、岡山出身の彼女たちのような地方アイドルからすると地理的、知名度的、歴史的にやはり目標であり憧れの場所となっているんでしょう」

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さらに森氏は武道館の設備や館内設計も異質であるという。

「武道館は均衡のとれた左右対称の作りになっていて、中央を客席、1階席、2階席が囲みます。この1階席、2階席がかなりの高さでして、特に中央から離れた2階席の端(後ろ)、通称『天空席』は中央から70mほどの遠さとなります。

これがどういうことを意味しているかと言うと、演者側からすれば体感的に360度、上から下までファンに埋め尽くされている状態に感じるわけです。

見渡す限りファンが自分のことを見てくれるということに加えて、武道館はドームに比べると規模も小さく、観客と演者の距離が近いのでより一体感を抱くはずです」

ファンの声援を正面からだけではなく背中でも受けており、それが常にアイドルを演じなくてはいけないという緊張感を発生させ、アイドルとしての気持ちを引き締めてさせているのかもしれない。

これはプレッシャーともとれるが、見方を変えれば誰もが自分を見てくれる特別な状況とも受け取ることができる。四方八方をファンに囲まれているライブの様子は、ステージに立つアイドルにとって最高の空間となり得るのだ。

そして、この特別なステージを観たアイドルの卵たちにも鮮烈な印象を残したに違いない。