骨身に沁みるジョブズの言葉、「いつかは死ぬ身」

心に刺さったジョブズの言葉がある。

「人生を左右する分かれ道を選ぶ時、いちばん頼りになるのは、いつかは死ぬ身だと知っていることだと思います。ほとんどのことが──周囲の期待、プライド、きまりの悪い思いや失敗への恐れなど──死に直面すると、そういうものがすべてどこかに行って本当に大事なことだけが残るからです」(2005年6月、スタンフォード大卒業式にて)

「いつかは死ぬ身」──この頃、骨身に沁みて思う。だから、残りの一日一日、一瞬一瞬が大切でしかたがない。それなのに、私は人間ができていないから、時につまらないことを思い煩いもったいない時間を過ごしてしまう。

「私たちを取り巻く感覚は、私たちの肉体の一部です。月、星、太陽、風、雨、すべては、あなたの肉体の一部なのです」

こちらは、弘文さんが遺した言葉だ。

私は、幼い頃から子どもながらに嫌なことがあると空を見上げていた。空を見ると、無限の宇宙では自分の悩みなどケシ粒ほどと実感する。こんなに汚れきった私でもスーッと自分が浄化されて、宇宙も人間もみんな一体と感じる瞬間だ。ゆうべもよいお月様が出ていた。そうだ、今夜も空を見上げよう。


撮影/中野義樹

宿無し弘文 スティーブ・ジョブズの禅僧
柳田由紀子
『ベルばら』伝説のトップスター・安奈淳を死の淵から救ったスティーブ・ジョブズの言葉_4
2022年9月16日
1045円(税込)
文庫 408ページ
ISBN:978-4-08-744437-7
女優、中嶋朋子が読んだ、胸がキュッとなった。
「生きるということに丸裸で向かい合い〝自分の往く道〟その上に、ただひたすらに坐した人、乙川弘文――」(解説)

「スティーブは、十日に一度は真夜中までうちにいたわ」と、乙川弘文の元妻は語った。スティーブ・ジョブズが師と仰ぎ、アップル社の思想に禅境の閃きを与えた僧侶・弘文。だが、彼は"禅道無宿"、自ら願って地獄に堕ちた。高僧か? 破戒僧か? そして不可解な死――。米、欧、日、夥しい関係者の証言からその死の謎に迫る渾身のノンフィクション。第六十九回日本エッセイスト・クラブ賞受賞作。
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