今回のゲストは、『せたがや子育てネット』の松田妙子さんです。
松田さんは、東京都世田谷区を中心に、子育てネットワークや子育て事業を数多く設立してきました。世田谷といえば、23区内で最大の人口を持ち、子育て世帯・共働き世帯も多い地域ですが、流入者も多く子育てで孤立しやすい一面もあります。
松田さん自身は東京の渋谷区生まれ。大学卒業後、渋谷区にあった子ども複合施設『こどもの城』に勤務したのち、夫の転勤先・三重に引っ越し。そこで第一子を出産しますが、頼れる親は近くにおらず孤立した子育てを経験。「誰かと話したい」「共有したい」という思いから、赤ちゃんサロンを始めます。それがきっかけで、東京に戻った後も地域での子育て支援活動やコミュニティづくりに尽力するようになりました。
前半では、コロナ禍で始めたフードパントリーの活動から気付かされた現状、地域が子育てでできること、松田さんが理想とする“ワーク・ライフ・コミュティバランス”について話を聞きます。(この記事は全2回の1回目です)
コロナ禍の休校で家庭にのし掛かった負担を軽減
2020年2月末、新型コロナウイルスが流行り始めて間もない頃、学校が休校になりました。学校が担っていた教育、給食支給などの活動すべてが家庭にのし掛かり、仕事も在宅勤務に。飲食店は休業を余儀なくされ、休職を言い渡される人もいました。そんな時、松田さんたちは『せたがやこどもフードパントリー』をスタートしました。
「高校生世代以下の子どものいるひとり親、多子世帯を中心にした活動です。ちょうどその時期、世田谷区ではお弁当を配るイベントがあったんです。春休みに入る時だったので、そのお知らせを配ったところ、300人ほどの申し込みがありました。給食費が免除になっている家庭は、自粛中の負担がすべて家庭にのしかかる。子育てひろばに来ていた子でも、『お昼食べた?』と聞くと食べていないのに『食べてきた』という子がいました。それでお弁当を配ってみたら、胸がザワザワするようなことがたくさんあって。中には、弟妹の世話をするヤングケアラーの子もいました」
休校が明けると、学校に行けない子も増えました。子どものことや仕事のこと、親たちも悩んでいる様子が、お弁当を渡すときに垣間見えたと振り返ります。
「子どもが大変だけど自分は稼がないといけない、会社で失敗して困っている、こんな嬉しいことがあった。家に帰っても子どもに話せないような話やちょっとした出来事を、受け渡しの時に話してくれる。中には、ボロボロと泣いてしまうお母さんもいました。話をしてくれるだけではなくて、子どもの服が小さくなったから使いますか? ベビーカーどうですか? と譲ってくださったりもして。子育てする仲間として、みんなが“お互い様”と思っている、助け合いの精神を感じました」
地域で子どもを見守り、たくさんの人で子育てを
地域で育てる、地域で育つ。松田さんが子育て事業やコミュニティを作り続ける理由に、地域に見守る目を増やして、たくさんの人で子育てしようという思いがあります。
「子どもは集団で育っていくもの。自分の子だけを特別にしよう・良くしようという考えは間違っていると思います。それはお金がある人はできるけど、そうじゃない人はこぼれ落ちてしまう。“お互い様だよね”“みんなで助け合おう”という精神が大切です。よその子も自分の子と同じように気に掛ける人を増やす、それを目的に活動を続けてきました」
最近よく報道される虐待の問題も、地域でのコミュニティ、育てる・見守る目が必要なのではないかと松田さんは問いかけます。
「その親子は町に住んでいて、子どもは私たちと同じ道を歩いています。何かが起こった時、行政や専門部分に助けてもらいながら過ごす時期と、地域で見守る時期を行ったり来たりできるのが理想だと思います。地域から引き離さずに見守りたいんです。“虐待がある”“障害が分かった”、そんな時に見えなくなるように切り取ってしまうのが一番悲しいと思います。範囲の見極めは必要ですが、地域として、その子が育った“ふるさと”だからできることがあるんじゃないかと思って」
行政や国からの仕事も多く受けている松田さん。とはいえ大切にすべきなのは、自分が住んでいる町や自治体。地域のことをやろうとするなら、まずは自治体とつながることが必要だと考えます。
「子どものための制度や仕組みは国が考えますが、基本は自治体単位で政策が作られていきます。町のことをやろうと思ったら、まずはその町と分かり合えないとできません。地域の人と組むことで実現できることがあれば、どんどん一緒にやれたらいいと思っています。ただし、虐待など専門的な人が必要な場合もあります。それ以外の見守り、関係を作るという部分は、地域の人が得意だと思うんです。双方がバランスよく活用されるのが理想だと思います」