自ら定めた個人情報保護条例を完全無視
横浜市が定める個人情報保護条例の内容に則って、今回の手続きがいかに杜撰であったのか説明すると、まず第6条では個人情報を収集する前に市長に詳細(目的、範囲、記録項目、収集方法、等)を届け出ることが義務付けられている。
安倍元総理の訃報が7月8日(金)夜に流れてから横浜市が11日(月)に記帳所を設置するまでの間、土日を挟んで役所としての業務時間がほとんど無い。こうした手続きが踏まれたのか疑問を抱いた筆者が横浜市に問い合わせたところ、「今回の記帳は届け先が決まるまでの『一時的な保管』のため、個人情報保護条例の適用外と判断した」(横浜市 総務局 7月20日)との答えが返ってきた。
先ほど紹介した第6条には、確かに「一時的な使用であって、短期間に廃棄され、又は消去される個人情報を取り扱う事務その他規則で定める事務を除く」という例外が規定されている。しかし、この回答を受け取った7月20日時点でも記帳開始から10日が経過し、すでに「一時的」とは言えない期間、横浜市は個人情報を保有していた。
さらに、この解釈は横浜市の首を自ら絞める結果を招いている。なぜならば、個人情報保護条例との整合性のため、記帳の届け先は永遠に決まらない可能性が極めて高いからだ。なぜ届け先が決まらないのか。これには個人情報保護条例 第10条が関係している。
個人情報保護の考え方に立ち返れば当然だが、ごく一部の例外(法令等の定めがある、本人の同意がある、報道等で公になっている、人の生命に関わる、など)を除いて、実施機関(=横浜市)以外への個人情報の提供は禁止されている。ゆえに、この条例を破らない限り、横浜市は記帳を外部に届けることは絶対に不可能だ。
しかし、このまま保管し続けると「一時的な保管」という言い分で省略した手続き(個人情報保護条例 第6条で定められる市長への事前届出)との整合性を保てない。横浜市はまさに八方塞がりの状況と言える。
この点を筆者が横浜市に対して指摘したところ、「記帳に訪れた時点で情報提供の本人同意はあったと解釈する」(横浜市 総務局 総務課 7月29日 回答)という信じ難い回答が返ってきた。
個人情報保護の概念を根底からぶち壊す横浜市の解釈に驚きつつも、「明確な本人同意を得ないまま、横浜市が収集した個人情報を外部提供した事例があるのか?」と問い質すと、「そのような事例は無い」(横浜市 市民局 市民情報課 9月12日 回答)という当然の答えが返ってきた。