「ぴえん」系若者たちがトー横に集う理由

「ぴえん」とは、涙に瞳をうるませ、何かを訴えかけてくるような絵文字のことを指している。それが若者の間で、悲しみや苦しみ、喜びや感動など複雑な感情を表す言葉としても使われている。「ぴえん」は絵文字ひとつ、単語ひとつで複雑な感情を表現してしまうわけで、そこには、ある種の軽さと乱暴さが感じられる。

この「ぴえん」を書名に冠して話題を呼んでいるのが『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』だ。歌舞伎町のTOHOシネマズ横のストリート、通称「トー横」にたむろしている若者たちの姿を追った一冊。その若者たちを象徴する言葉が「ぴえん」なのだ。著者の佐々木チワワは10代の頃から歌舞伎町に通っており、街の内側から若者たちの姿を描こうと試みる。

「ぴえん」とは何を意味しているのか? ~若者文化の裏にある搾取と不平等~_1
『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』佐々木チワワ 扶桑社新書 902円(税込)

本書には、TikTokなどのSNSで自分たちのかっこよさや可愛らしさを発信したり、その姿を見て憧れる若者たちが描かれている。

その交流は、ホストクラブやメンチカ(メンズ地下アイドル=男性の地下アイドルの略)のビジネスとも密接に繋がっており、女性たちから金銭を吸い上げている。彼らに支払うお金を稼ぐために、性風俗産業で働く女性も少なくない。

ルッキズムと搾取に首まで浸かり、ときには殺人事件や心中自殺にまで発展してしまう――「夜の街」に通う人々のそんな姿が本書には切り取られている。

キャッチーな要素だけを抜き出せば、性に乱れ、金銭や命を軽んじる、いかにも「ただれた若者たち」という印象を持たれるかもしれない。

しかし著者が目指しているのは、いわゆる「若者論」ではない。若者たちが歌舞伎町という街で何を身に纏っているのか、その装いで何から身を守ろうとしているのか、本書はそれを明らかにしようとしているのだ。

「ぴえん」系の若者たちがトー横に集うのは、そこに居場所を見出したからだ。「他に行く場所が無い、トー横に行けば仲間がいる」という感覚は、家庭や学校といったコミュニティから追いやられたからなのかもしれない。

セーフティーネットとしてトー横や「ぴえん」カルチャーがいかに機能し、そこに集う若者たちは、どのように“文化”を作り上げてきたのか。ときに取り返しのつかない事件が起きている点など看過できない部分もあるが、本書は「ぴえん」を取り巻く刺激的な現象を活写した貴重な一冊だ。