相川七瀬が神話を感じる場所
トークイベントでは、「神話を感じられる場所」というテーマがとりあげられた。たとえば平藤教授は死者の世界である黄泉の国に通じる〝黄泉比良坂〟とされる島根県松江市郊外の坂を紹介し、次のように語った。
「黄泉比良坂って、言葉だけを追っていると、ひら・さか、平らな坂という意味になるので、矛盾してるんですね(笑)。だけど実際に、ここがそうだと伝えられている道を歩いてみると、くねくね、アップダウンがあって、登り坂とも下り坂とも分からなくなるんです。平らなんだけど、登ったり下ったり、“ひら・さかってそういうことか”と感じられました」
非常に印象的な体験談だ。こうした体験は日本人の旅行者のみならず、外国人でも前提となる知識と感性があれば得られるであろう。たとえば文化人類学者のレヴィ=ストロースは江藤淳との対談の中で、ニニギノミコトと海神の娘の結婚の場(鵜戸神宮の洞窟)を訪れた時に「神話で語られていることは本当にあった」と納得したと語っていたものだ。
さて、それでは相川七瀬が神話を感じられた場所は?
「熊野の花窟神社ですね。本当にすばらしいところで、イザナミノミコトがそこで、カグツチノミコトを産んで亡くなったという伝承があります。岩山がご神体になっているのですが、その巨大さに圧倒されます! その御神体である巨岩に毎年注連縄(しめなわ)を張る、お綱かけ神事という神事が行われています。
なんとこの大きな岩山にかける注連縄は、170mにもなるんです。当然、10人20人じゃ持てないので、何十人もの氏子さんや外部の参加者の方がいっしょに海から引っぱってかけるんですが、それを見ていると、『イザナミノミコトがここで亡くなって、だからこの土地の人々が今も大切にまつっているんだな』と、神話の原点を感じます」
相川は神事にも深い興味を抱いているようで、イベントでは他にも、夫が一度だけ参加できたという熊野・神倉神社のお燈まつり(ちなみに女人禁制)や、対馬の豆酘(つつ)集落に伝わり彼女自身がその継承に力を注いでいる赤米神事についての体験も聞かせてくれた。