ボールを捉えた瞬間のド迫力のコマに震えろ!

④DL学園 VS 横羽間(『バトルスタディーズ』講談社) 

「大甲子園」「H2」「バトルスタディーズ」…高校野球マンガ「あの甲子園の熱闘がスゴかった」10選_2
バトルスタディーズ Ⓒなきぼくろ/講談社
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どこかで聞いたことのある、DL学園(大阪)と横羽間(神奈川)という夢の対決が、同作の夏の甲子園準決勝で実現。果たして両チームは、「延長17回」の偉大なる先輩たちを超えられるのか!?

本作の魅力は、誰もが認める一枚絵のド迫力! 横羽間の四番・海部太平洋のマン振り、DL学園・狩野のフェンス直撃弾、同じくDL学園・楠和也のレフトライナー。作者はいい絵が残したいという思いでマンガを描いているのでは……と思えるほどの巧みさ。ボールを捉えた一瞬のコマはもはやアートの領域である。

「恋と野球」あだち充の“らしくない”熱闘

⑤千川 VS 明和第一(『H2』小学館)

あだち充と言えば、代名詞は「恋と野球」。その両方が凝縮された試合こそ夏の甲子園準決勝。春夏連覇を狙う千川(北東京)と、夏二連覇を達成したい明和第一(南東京)による東京同士の一戦だ。

千川のエースは主人公・国見比呂。いつものあだち充顔をした男のコである。彼に恋心を寄せるのがマネージャーの古賀春華。ややショートカットの女のコ。

明和第一の四番はライバル・橘英雄。比呂とは親友関係でもある。スタンドに座るのは、比呂の幼なじみであり、英雄の恋人でもある雨宮ひかり。ミディアム&真ん中分けの女のコ。グラウンドでの対決は、ひかりを巡る男同士の一騎打ちであり、四角関係に終止符を打つ戦いでもある。

盛り上がってくる場面になると、サッと交わすことも多いあだち充だが、さすがにこの試合だけは待ったなし! 熱い戦いを真正面から描いている。注目は、日本一の四番である英雄のために、比呂が覚えたという高速スライダー。勝負の一球……果たして、曲がるか曲がらざるか!?

 「甲子園の魔物」を描いた圧倒的リアリティ!

⑥彩珠学院 VS 興洋学園(『ラストイニング』小学館)

就任1年で彩珠学院(埼玉)を立て直した鳩ヶ谷圭輔監督は、夏の甲子園準々決勝で興洋学園(香川)と対決。非野球エリートたちが集まった、雑草軍団と呼ばれるチームである。

この試合、彩珠学院はエース・日高が連投で疲労が溜まっており、鳩ヶ谷は継投にひと苦労。これまでとは異なるベンチワークを駆使するも、終盤にかけて劣勢の展開に。

そんな中、勝負の明暗を分けたのは「甲子園の魔物」。言葉としてはよく聞くが、マンガで再現するには非常に難しい題材だ。キーワードは「エラー」「代走」「思い切り」。紙面に魔物を降臨させた、リアリティのある展開を目に焼きつけたい。

史上最高を目指す少年が頂点を狙う

⑦海空 VS 山沼(『県立海空高校野球部員山下たろーくん』集英社)

「史上最高の野球部員」を目指す山下たろーが所属する海空は、ついに辿り着いたセンバツ決勝へ進出。彼らを待っていたのは、地区大会決勝、関東大会決勝と戦ってきたライバルの山沼だ。いわゆる「最初の敵がラスボスだった」的なストーリーである。

地区大会決勝で登場して以後、「知っているのか雷電!?」を地でいく、スタンドの“解説者ポジション”がすっかり定位置になってしまった山沼のエース・佐々木だが、試合相手として立ちはだかるとやはり強敵。関東大会決勝でも、その存在感で海空を苦しめている。

試合の注目点はズバリ、どヘタクソだった山下たろーが日本一に輝き、史上最高の野球部員になれるのかどうか。

「史上最低の野球部員」「百年にひとりの大鈍才」と笑われながらも諦めず、「おで いつの日か ぜったい野球うまくなって ぐやじくねーくするんだモンねーっ」と頑張り続けたたろー。努力系高校野球マンガの代表格に挙げられる、感動的な決勝戦だ。

インフレ野球のギリギリラインがココだ!

⑧夢の島 VS 神戸翼成(『Dreams』講談社)

ガムを噛み、頭髪は茶髪というスタイルで、高野連に真っ向からケンカを売る反逆児・久里武志が率いる夢の島(南東京)。夏の甲子園1回戦では、「豪爆打線」の異名を取る地元代表の神戸翼成(兵庫)と激突する。

そこには久里以上のバケモノとウワサされる投手・生田庸兵がいた。久里が勝手に審判の代わりに挨拶の号令をかければ、生田は投球練習のボールを銀傘のはるか彼方へ放ってしまう。両者とも、天才であるがゆえの「お山の大将」っぷり。だが、ハイレベルな戦いを経て、2人はお互いをライバルと認めるようになっていく。

本作の特徴は、この試合以降も、描写の急激なインフレ化が止まらなくなるところ。多くの打法と魔球が生み出され、「もはや高校生じゃないだろう」どころではなく、「こんな人間いるかっ!」レベルにまで達してしまう。そんな中、名勝負としてギリギリ踏みとどまっているのがこの一戦。生田という男も、後々まで久里に影響を与える大きな存在となっていく。

負け知らずの悪童が決勝戦でも吠えまくる

⑨浪城 VS 北王学園(『なんと孫六』講談社)

ワルガキ、ワガママ、乱暴者……主人公・甲斐孫六を知らなければ悪童野球は語れない。彼はやりたい放題の1年生だが、野球の実力は本物。不良の集まる大阪の浪城を率い、夏の甲子園決勝戦までやってくる。

相手は北海道勢初の優勝を目指す、南北海道の北王学園。飛んでくるゴルフボールを真剣で真っ二つにしてしまう男・藤堂大樹が主砲を務めている。

準決勝で負傷者が続出してしまった浪城は、初回で5点のビハインド。傍若無人かつ傲岸不遜な態度で、野球もケンカも勝ちまくってきた孫六がついに敗れてしまうのか!? 
「男がマウンドにたったらいい訳はでけへん とるか とられるかや」とうそぶく孫六。「最後に笑うのは この甲斐孫六じゃ」と叫びながら投げる彼の前には、さらなる落とし穴が待っているのだった……。

怪物 VS 無失点男の息詰まる投手戦

⑩青道 VS 巨摩大藤巻(『ダイヤのA act II』講談社)

青道(西東京)と巨摩大藤巻(南北海道)が激突したのはセンバツ準々決勝。注目は青道の怪物・降谷暁と、巨摩大藤巻の無失点男・本郷正宗の対決。降谷はここまでに154キロを叩き出し、一躍マスコミ注目の投手に。2年生ながらその名は全国区に広まっていた。

同じ2年生である本郷のほうは、150キロ超のストレートに伝家の宝刀スプリットを併せ持つ。世代最強の呼び声が高く、巨摩大藤巻の新田監督は「全ての感情を投球で表現できる桁違いの器量(アビリティ) まさに野球の申し子」と彼を評する。

その本郷が六回まで青道をノーヒットに抑え込めば、降谷はフタ桁奪三振でスタンドの度肝を抜く。息詰まる投手戦は、どちらも譲ることのないまま結末へ。

同作は現在も連載中のため、この試合が夏の甲子園へつながる熱い前哨戦となる可能性が高い。今後の展開も含めて要注目だ。



選者&文/ツクイヨシヒサ(野球マンガ評論家)