6月から開始された「線状降水帯予測」

古い話で恐縮だが、私が新人記者のころは、先輩から「時間雨量30ミリ、24時間雨量100ミリを超えたら、どこかで災害が起きている可能性がある。警戒しろ」と言われたものだ。ただ、今の日本では、この雨量で被害が出ることはまずない。

とはいえ災害も進化していて、時間雨量が100ミリという猛烈な雨が珍しくなくなってきた。決して「昔より安全」とは言い切れない。むしろ宅地開発などで地形が大きく変わり、危険になっている場合もある。例えば昨年、静岡県熱海市では盛り土の崩壊で多数の死者が出た。あれは盛り土がなければ起きなかった災害だった。

今年から始まった線状降水帯の予測も、そうした極端な集中豪雨に対応するために設けられた。この予測は野心的だ。線状降水帯による大雨の正確な予測は難しいため、「的中率は4回に1回ぐらい」と気象庁自身が明かしている。

発表のタイミングは12時間前から6時間前、範囲は「東北地方」のように大まかな地域でしかない。そのせいか、気象庁は予報という言葉は使わずに予測とし、気象情報の中で言及する方針だ。

実際、スタートして最初の線状降水帯が7月5日に高知県で発生したが、残念ながら予測できなかった。また、その後の「7月15日夜から16日午前に山口県から九州で発生」という予測は空振りだった。

8月に入ってからは、北陸地方から東北地方の各地で線状降水帯が発生し、道路や鉄道、住宅などが大きな被害を受け、犠牲者も出た。この災害でも線状降水帯の発生後に、発表するのがやっとだった。

このように、スタートこそうまくいっていないが、人命にかかわる災害が起きやすい線状降水帯は、予測できれば災害軽減に貢献する。今は的中率が低くても、止めずに続けて研究し、精度を上げていってほしい。