2人の生存確認すら行われていない

たとえ田中さんと金田さんに帰国の意思がないにしても、一時帰国を実現することは政府の人道的使命である。しかも田中さんの結婚相手が日本人で長男の名前が「一男」だという情報もある。結婚相手の女性もまた、拉致被害者である可能性がある。

北朝鮮の管理体制のもとで、彼らは自由な発言はできないだろう。それでも拉致被害の全貌に迫るためにも拉致被害者から少しでも情報を引き出す必要があるのは当然のことだ。日本政府は、いまからでも外務省と警察庁の専門家を平壌へ派遣して、本人から聞き取りを行うべきだ。

田中実さんの生存情報が報じられたとき、高校時代の同級生が集まって、もし一時帰国することになれば、羽田空港まで迎えに行こうと話し合ったという。私は予算委員会で田中さんの問題を質問する前に、大阪にいる同級生のひとり坂田洋介さんに会ってきた。

坂田さんは、

「もし一時帰国だったとしても、大変だったなとねぎらいたいんです。担任教師も亡くなる前に、田中のことをよろしく頼むと言っていました」

と語っていた。

横田滋さん、早紀江さんと、めぐみさんの娘ウンギョンさんとの面会を実現させたように、田中実さんと金田龍光さんの生存確認と今後の要望について本人から聞き取ることは、政府にとってきわめて人道的な課題なのである。にもかかわらず安倍総理は、田中実さんの生存伝達だけではほかの拉致被害者についての「情報が少ない」ことを理由に、この課題を封印してしまった。

北朝鮮側は、2002年9月に政府認定拉致被害者「8人死亡」を日本側に通告して以来いっさい訂正することなく、2014年秋と2015年の協議で新たに田中さんと金田さんの生存情報を出してきたのだから、なおさらだ。