なぜ安倍総理は重大情報を伏せたのか
私はこの問題を政府への質問主意書(2019年に2本、2020年に3本)で問い、参議院予算委員会(2020年3月16日)でも安倍総理に質問した。
政府答弁は拉致問題に限らず、認めたくなければ「今後の対応に支障をきたす恐れがあるのでお答えを控えさせていただきます」という決まり文句を繰り返す。そうでないときは明確に否定する。
私は、「日本経済新聞」が二度にわたって一面トップで報じた5年前の記事の真偽を、この予算委員会(2020年3月16日)で質問した。
1本目の記事の見出しは「北朝鮮、生存者リスト提示 拉致被害者ら『2桁』 政府、情報の分析急ぐ」と衝撃的なものだった(2014年7月3日付朝刊)。
「日本と北朝鮮が1日に北京で開いた外務省局長級協議で、北朝鮮国内に生存しているとみられる日本人のリストを北朝鮮側が提示していたことが明らかになった。リストに掲載されているのは2桁の人数だという。日本政府はリストに掲載されている人物が拉致被害者や拉致の疑いがある特定失踪者らと同一かどうかの確認作業に着手した」
同年7月10日付朝刊の続報で「日本経済新聞」は、「拉致被害者 複数 生存者リストは約30人 政府 北朝鮮情報を照合」と具体的に報じていた。予算委員会で私は菅義偉拉致問題担当大臣に「この記事に対してどういう対応を取られましたか」と質問した。答弁はこうだ。
「今御指摘をいただいた報道は当然承知しております。そして、私はこのことについて、そのような事実は全くない、このように申し上げました。誤報であるということを明確にしました」
政府は2014年7月10日に、外務省、拉致問題対策本部事務局、警察庁の連名で「日本経済新聞」に抗議し、記事の速やかな訂正を求めた。
この報道当時、拉致被害者の家族が、強い期待を抱いたのは当然だ。この情報は政治部記者が書いたものだから、政府関係者か官僚に取材したはずだ。しかしいまなお報道の根拠は不明だ。
私は、横田滋さん、早紀江さんと話す機会があったときに、この情報は真偽が不明だが、怪しいと判断していることをお話しした。こうした微妙な問題をお伝えするときは、とても気をつかう。
根拠がない楽観情報ばかり伝えてくる人物に対して、滋さんは懐疑的だった。たとえば、めぐみさんが平壌のある場所に住んでいると公言する人物もいた。ところが根拠を訊ねても、口を濁すという。
重要な情報があれば家族にだけは伝えるべきだが、そんな核心を突いた情報など、日本政府さえたやすくは入手できない。だからこそ、帰国した被害者から聴取した「極秘文書」に記録された横田めぐみさんたちの情報は貴重だった。
ましてや田中実さん、金田龍光さん生存を北朝鮮側が伝えてきたのだから、その情報が正しいのかどうかを確認し、本人に面会する必要があった。それだけでも安倍政権にとって大きな成果となるはずだったのだ。