未だ放置されたままの拉致被害者たち

私は参議院本会議(2020年6月8日)で、拉致被害者の救出に序列があるのかと総理に問うた。

「私は、3月16日の予算委員会などで何度も首相に問うてきた問題があります。それは、政府認定拉致被害者の田中実さんと特定失踪者の金田龍光さんが生存していると北朝鮮から2014年に通告されたものの、その事実さえいまだ認めないことです。田中さんと金田さんの安否確認をするべきですが、もう6年も放置したままです。余りにも冷淡ではありませんか。それとも、拉致被害者の救出に序列でもあるのでしょうか。

田中さんは70歳。どうしていらっしゃるか全く分かりません。警察庁も把握しているように、結婚した相手が日本人だという情報もあります。それが拉致被害者なのか、特定失踪者なのか、確認するのが政府の責任です」

安倍総理の答弁はまったく意味のないものだった。

「北朝鮮による拉致被害者や拉致の可能性が排除できない方については、平素から情報収集等に努めておりますが、今後の対応は、支障を来すおそれがあることから、それらについてお答えすることは差し控えさせていただきます」

田中実さんという固有名詞さえ使わない答弁であった。

なお、拉致問題を「完全解決の決意で進んでいきたい」と公約した安倍晋三氏が、総理として拉致問題について語った本会議での最後の答弁がこれである。「序列などない」とも安倍総理は言わなかった。

なお岸田文雄政権になり、私は参議院予算委員会(2021年12月16日)でも同じ質問をした。

岸田総理は「御指摘のように、例えば順番があるんではないか、序列があるんではないか、そのように委員おっしゃいましたが、そういったことは決してございません」と答弁した。安倍総理より言葉数は多いが、現実に田中実さんは放置されたままである。

写真/shutterstock

北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実
有田 芳生
拉致問題の「完全解決」を約束した安倍元首相が封印した重大情報_1
2022年6月17日発売
902円(税込)
新書判/224ページ
ISBN:978-4-08-721217-4

小泉訪朝から20年。
なぜ解決できなかったのか?

◆内容◆
2002年9月、小泉純一郎氏が日本の総理として初めて北朝鮮を電撃訪問し、金正日委員長が拉致を認め、5人の被害者が帰国を果たしてから20年。
小泉訪朝当時、日朝関係は大きく改善するかに見えた。
だが、その後交渉は暗礁に乗り上げ、拉致問題解決を重要課題としていた安倍長期政権、続く政権でも進展がない。
国会の「北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会」等でこの問題に尽力してきた著者はある文書を入手。
そこには拉致の実態、北朝鮮での生活等が詳しく記されていた。本書は極秘文書の内容を分析し、日朝外交を概観することで問題が解決に進まない原因を指摘。北東アジア安定のために何が必要かを提言する。
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