「『写真家』ってさ自分で言って恥ずかしいよね」
アサイメントの仕事で稼いだお金を作品制作のために注ぎ込むのだ。
作品だけで利益が出ることはほぼない。最初から、そのことはわかっている。それでも、撮りたいから撮るという単純な話だ。
ただ日本の写真界全体を見回してみると、そのような両輪スタイルの者はかなり少ない。写真を生業としている者のほとんどはカメラマンに当てはまる。つまり依頼された写真を需要に応えて撮る人たちが大半である。もちろんそこには競争が常にあるから、おちおちしていられない。
ちなみに最近、興味深い記事を見つけた(雑誌『写真』創刊号、ふげん社、2022年1月)。写真家の森山大道と同じく写真家の北島敬三の対談だ。北島は、かつて森山が「(略)カメラマンという言い方にこだわって、むしろ作家という言い方を忌避していたのかなと」感じていたと発言する。
それに対し森山は「だって『カメラマン』でいいでしょ。『写真家』ってさ自分で言って恥ずかしいよね。(略)『カメラマン』のどこが悪いのって感じだよね。俺は今もまったく変わっていないの」と答える。現在の日本写真界で、写真家という呼び方が最もふさわしいと感じる一人である森山の発言だけに、興味深い。
前編 写真の達人が考える「いい写真」を撮るための3つの要素はこちら