「多くの子どもの心臓が止まった時、私の年齢も止まってしまった」
ビジネスの世界では、さまざまな業種のマーケティングに「ストーリーテリング」と呼ばれる手法が活用されている。これは、自社の商品や企画などを紹介するときに、物語やエピソードを交えて語ることを指す。
たとえばコマーシャルでその商品を買うと、どんないいことが起こるのかを物語として描いたり、その商品にまつわる自分ならではの体験談を語る、といった具合だ。このように、伝えたい事柄を物語化して表現すると、聞き手により強い印象を与えられる。
ゼレンスキーは、このように語り手の心情を聞き手に想像させるストーリーテリングもうまい。その一例が、2022年3月8日に行われたイギリス議会での演説における彼の言葉だ。
「午前四時、ミサイルが飛んできた。それ以来、眠っていない」
眠っていないのは、ロシア軍の攻撃に対する怒りのためか、それとも不安や恐怖で眠れないのか。いずれにせよ、ゼレンスキーのこの発言は、聞き手の共感を生むと共に、冷酷なプーチン大統領に立ち向かう「普通の人間」らしいリーダー像を印象付けた。
「多くの子どもの心臓が止まった時、私の年齢も止まってしまった」
これは、2022年3月16日に行われたアメリカ連邦会議での演説の言葉。ロシア軍による無差別攻撃によって、子どもたちの命まで失われていることを知れば、誰でも心が痛むものだ。さらに「子ども」というワードを含むこの発言は「他人事と思わないでほしい」というメッセージを、国際社会に向けて発信しているようにも感じられる。