演じる役を初めて「嫌い」だと思った

ムロツヨシと岸井ゆきのが「嫌い」と口を揃える、映画『神は見返りを求める』の強烈キャラ_3

――物語の内容についてはいかがでしょう? 今、まさに誰もが既視感を覚えるであろう内容に驚きました。脚本を読んだときの感想を教えてください。

岸井 田母神さんとゆりちゃんが一緒にYouTubeを作り始める前半は、すごく楽しくてピュアな物語だなと思いました。「吉田監督、こんな物語も書くんだ!」と思ったくらい。ただ、脚本を読み進めていくうちに、ゆりちゃんが変わっていく姿がすごく醜く思えたんです。自分が演じる役にはいつも愛情を抱くんですけど、このキャラクターは「嫌い」って思った。あまりない体験でしたね。ただし、物事の歯車が合わなくなってしまう瞬間は私にも身に覚えがあるので、今や「ゆりちゃんも無理してたんだなー」って、優しい気持ちで見られるようになりました。

ムロ 映画の中にもあるもんね。無理しているゆりちゃんの姿を垣間見るところが。

岸井 そうですね。吉田監督らしいエグさというか、心に何か残してくる感じがこの作品にもあると思いました。

ムロ 『神は見返りを求める』の脚本を読ませていただいたのは3年前でしたが、前半と後半で物語がガラッと変化したり、キャラクターのギャップを描く感じはおもしろかったです。本当に吉田さんらしいと思いました。と同時に、公開されたときに時代遅れになる可能性はないか、時代にマッチするのだろうかという思いもありました。当時から「SNSが発達しすぎてねーか?」みたいな危機感をみんなが抱いていたし、本当に時代の流れが速くて読みきれなかったですから。まさか何ちゃらウイルスが流行するなんて、誰も想像してなかったですし。結果的に、ここまで時代とリンクする物語になるとは思っていなかったので驚きました。

ムロツヨシと岸井ゆきのが「嫌い」と口を揃える、映画『神は見返りを求める』の強烈キャラ_4

――ムロさんが演じられた田母神の豹変ぶりも衝撃的でした。

ムロ 僕自身、いい人ぶって誰かに優しく手を差し伸べたときに、やっぱり見返りを求めてしまうことはあるんです。「ありがとう」のひと言だったり、「助かったよ。次何かあったら手伝うよ」みたいな言葉があるのとないのとで、満足感は変わってきますからね。ゆりちゃんからそれが得られなかったことによって、田母神は憎しみや怒りに支配されていく。あんなに優しかった人が……と思わせる、振り幅の大きい役を僕に任せてもらえたことはうれしかったです。

――岸井さんは、ゆりちゃんに対して当初は「嫌い」だったと表現されました。田母神に対するムロさんの心情は?

ムロ 嫌いですよね。ダメよ、あんなことしたら。それは好きになれない。だって矛先もやり方も間違えているんだもん。だけど、心情的に言えば、とてつもなくわかりますね。自分が過去に手を貸したり、お金を出したことに対してなかったことになっていく怒りはすごく理解できるから。「もしかしたらそうなるかも」という可能性は、自分がいる世界でも、自分自身にもあること。田母神の場合は、いろんな不運やアクシデントが重なり、重なり、重なって……いつの間にかコントロールできない自分を生み出してしまったのかなって思いました。