「ネットですごいことになっているよ」

國重さんが異変を知ったのは、花火大会翌朝のことだった。友人から電話があり、「ネットですごいことになっているよ」と告げられた。

「普段、SNSはたまに見る程度なんですが、友人がLINEで、XやInstagram、個人のブログなどの画像を何枚も送ってくれました。あさひ丸の写真が、花火の打ち上げを遅らせた船として載っていたんです。

「レジャー船の罪はかなり重い!」「訴えるべき」と綴った投稿
「レジャー船の罪はかなり重い!」「訴えるべき」と綴った投稿

『逮捕されろ』『許さない』とか、身に覚えのないひどいことが無数に書かれていました。船体の柄が特徴的で、似た船はほかにありません。すぐに船名も特定されるでしょうし、何かされるか怖くて自分や身内の命の危険すら感じました」

警戒業務は、父の代から引き受けてきた仕事だった。國重さんによると、委託料は4隻合わせてその年によるが15万円前後。燃料代に加え、船につける「警戒船」の表示も自分たちで用意し、真夏の船上で働く船員の熱中症対策にも費用がかかったという。

「報酬をいただいても、手元にはほとんど残りません。みんな、市の役に立ちたいという、ボランティアのような気持ちで引き受けているんです。それなのに、花火を遅らせた船だと思われてしまったんです」

市はその後、公式Xやホームページで、警戒船が侵入船と誤認されていることについて説明した。國重さんによると、市長と非公式に面会した際には謝罪を受け、「市としてできる限りのことをする」との言葉もあったという。

坂出市ホームページにも「お願い」と「お詫び」が掲載された(写真/坂出市ホームページ)
坂出市ホームページにも「お願い」と「お詫び」が掲載された(写真/坂出市ホームページ)

國重さんは、あさひ丸が市の委託で警戒業務にあたっていた船だと、明確に伝えてほしいと求めた。市の発信だけでは、船に向けられた誤解が十分に解けたとは感じられなかったという。

「友人らが投稿のスクリーンショットを続々と送ってくれたんですが、途中からは怖くて、疲れてしまって、見られないものもありました。普段はお客さんを船に乗せる商売ですから、これ以上、怖い思いをして、怯えながら生活したくありませんでした」

海運業の廃業を決めたのは、花火大会が開かれた月だった。國重さんは、騒動が起きるまでは、仕事を続けるために船の修理を進めていたと話す。

「廃業後、市長が『(誹謗中傷が理由ではなく)どうせ、もともと廃業を計画してたんでしょ』って軽口を叩いていたと聞きました。本当にショックです。

花火大会の時点では、エンジンの子機を修理するために30万円以上かけて部品を買っていたんです。続けるつもりしかありませんでした。なんといっても、あさひ丸は父が遺してくれた大切な宝物ですから…」