知らず知らずのうちに数の概念を育てられるそろばん

では、3~5歳ほどの幼い子どもでも、そろばんを使うことはできるのだろうか? 鈴木氏によれば、未就学児にとっても、そろばんは決して難しい道具ではないという。

「そろばんは、おはじきの延長線上にある具体物ですから、子どもたちにとっては数遊びの感覚なんです。そろばんの珠を動かしながら、知らず知らずのうちに数の概念を育てられます」(鈴木氏)

歴史的に見れば、1986年に全国で約1万3000あったそろばん教室は、2010年代半ばには約6400教室へと半減。一時は衰退したそろばんが、なぜいま、幼い子どもの習い事として注目されているのか?

東京都武蔵野市にあるそろばん塾「あんざんスクールSION」で黙々と問題に向き合っていた英一君(仮名)は、保育園に通う6歳だ。そろばんを始めたのは今年4月。それにもかかわらず、講師の井上智子氏が英一君が取り組んでいるものだと見せてくれたのは、小学2年生の後半の子どもが取り組む教材だった。

「このくらいの問題なら1週間で1冊は仕上げてきます」(井上氏)

そろばん塾「あんざんスクールSION」代表の井上智子さん(撮影/千駄木雄大)
そろばん塾「あんざんスクールSION」代表の井上智子さん(撮影/千駄木雄大)
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井上氏が重視しているのが、「珠算式暗算」。そろばんの珠を頭のなかに思い浮かべ、それを動かすように計算する。単にそろばんを速くはじけるようになることが目的ではないという。

「珠算式暗算は中学受験にも使えると思っています。暗算ができて計算が速いということは、それだけほかの問題に時間を使えます」(井上氏)

教室がある武蔵野市や隣接する三鷹市は、中学受験が盛んな地域でもある。英一君の保護者も、中学受験を視野に入れている。

そして、親がそろばんに求めるものも、昔とは少し変わっている。

「昭和の時代は小学2年生くらいになって『九九ができないとやらせない』という空気感でした。でも、今はそうではありません。簡単な計算をしながら九九を覚えるベースとして使う。親御さんとしては、そろばんそのものより、暗算ができるようになってほしいという希望が強いですね」(井上氏)

実際、全国珠算教育連盟の資料によると、東京都支部を通じて2024年に東京23区のそろばん教室へ通う小学生以下の子どもを持つ保護者を対象に調査したところ、75.3%が小学1年生までにそろばんを始めていた。さらに、中学受験を予定している家庭に限ると、その割合は88.3%に上る。