クリスの家に走った福井光子

にもかかわらず、加藤さんもクリスもジェントルマンで、レコーディングはトラブルなく進み、音楽的にも充実したものが出来上がった。私に比べて2人はずっと大人だったわけだ。

けれど、私と加藤さんとの仲はしっくり行かなくなっていて、すでに『Hot!Menu』のレコーディング前から離婚しましょう、という話になっていたのだった。

この年の秋、サディスティック・ミカ・バンドはロキシー・ミュージックに帯同して、英国ツアーを行う予定が決まっていた。

ロキシー・ミュージック側からは前座という扱いではなく、敬意を払われてフロント・アクトとして十分な演奏時間を与えられた。

ミカと加藤はプライベートの離婚問題を一時的に棚上げにして、10月2日から23日まで合計19回のギグを行って評判になり、イギリスの音楽シーンに大きな反響を巻き起こした。ところによってはロキシー・ミュージックを喰ってしまったこともあったらしい。

加藤は念願だった海外での最初の成功を、ここで収めることができたのだった。だが、このツアーがバンドにとっては最後の仕事になった。ツアー最後の日、ミカはホテルには戻らず、クリスの家に走った。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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しばらくしてミカは離婚手続きのために帰国するが、加藤からその日のうちに離婚届にサインをしてもらい、クリスと暮らすために再びイギリスに旅立った。

それから20年の歳月を経て、ミカは著書の『ラブ&キッス英国―イギリスは暮らしの達人』で、加藤への感謝の言葉をこう綴っている。

最後まで、実に優しい人だった。でも、そんな加藤さんの「男の優しさ」を心底理解することができない未熟な私、だったと思う。

今にして思えば、加藤さんと私は「お友達夫婦」の走りとも言うべき結婚生活だった。ミカ、トノバンと呼び合い、お料理上手の加藤さんはいつでもおいしい食事を作ってくれた。

日本では、そんな夫婦はまだまだ少なかったと思う。それに、生活全般にわたって加藤さんの影響を受け、センスを磨かれたことは数え切れない。

公私ともにパートナーだったミカを失った加藤には、新たなパートナーとなる作詞家の安井かずみとの出会いが待っていた。

文/TAP the POP、佐藤剛

参考・引用 「ラブ&キッス英国―イギリスは暮らしの達人」(福井ミカ著 徳間文庫刊)