無視できないインフレリスク
我々の年金が今後増える見込みは限りなく薄いが、物価はほぼ確実に上昇していく。政府・日銀は「消費者物価の前年比上昇率で2%」 とする「物価安定の目標」を掲げている。
長く日本はデフレの状況にあったが、それでも年2%くらいのインフレの目標を達成するべく、経済を誘導している。そして今、いよいよ日本もインフレの時代に突入した。
仮に年2%の物価上昇が現実に起きれば、現時点の物価で「老後の生活では月15万円の赤字を埋めれば大丈夫そう」と思っていても、30年後には月30万円の穴埋めが必要になっていてもおかしくない。
では将来設計をするにあたって、インフレリスクをどのように組み込めばいいのか。ここで大事なのは、まず自分が「名目リターン」でシミュレーションをしているのか、「実質リターン」でシミュレーションをしているのか、を正しく理解することだ。
「名目リターン」と「実質リターン」
名目リターンとは、単純に「お金がどれだけ増えたか」という数値。例えば100万円が1年後に110万円になっていれば、名目リターンは年10%。ただしここには物価の上昇(インフレ)は考慮されていない。
一方で、実質リターンとは、「物価上昇を加味した、お金の価値の増え方」だ。
・名目リターン:10%(額面は10%増えた)
・インフレ率:2%(物の値段が2%上がった)
・実質リターン:8%(「実際に豊かになった分」は8%)
資産形成のシミュレーションでは、この前提の理解がとても重要になる。
インデックス投資の将来シミュレーションで「控えめに年利5%で試算すると……」なんてフレーズ、よく聞いたことがあると思う。あれはインフレを加味した実質リターンで計算している。
S&P500の過去30年の名目リターンは約10%。インフレ率を差し引いた実質リターンが約7%くらいなので、それに対して控えめに見積もって5%ということだ。
なのでインデックス投資を年5%くらいで見積もってシミュレーションしている、という人は、今の物価でシミュレーションした不足額で問題ない。
一方で配当利回りや増配率などの数字をベースにしたシミュレーションは「名目リターン」で計算されている。その場合は将来のインフレまで考慮する必要がある。つまり「将来の物価水準では月15万円の配当金では足りない」前提で、逆算しなければいけない。配当金での生活をイメージしている人も同じだ。
本来、名目リターンで将来を考える場合は「支出も収入も物価とともに2倍になる」というのが理屈上の標準モデル。だが現在月20万円の年金が40万円になることは想像しにくいだろう。
将来の年金は目減りし、「インフレに追いつかない前提」で考えるのが妥当だ。「支出は2倍になるが年金は横ばいか微増」くらいの保守的なスタンスで考えてもいいかもしれない。そこで、現在20万円の年金は35年後に30万円程度にしかならないと仮定する(物価上昇2倍に追いつかず1.5倍くらい。これすら想像しにくいのは悲しいが)。
そうなると、名目リターンでのシミュレーションで支出35万円、不足15万円と見込んでいても、実際に35年後には支出70万円、不足は40万円ということもありうる。
設計ミスが起こらないよう、自分がどちらの数字で前提を組み立てているのか、今一度考えてみよう。ここでは2つのケースを紹介する。











