老人ホームの現実を知る
まだ介護を必要としない私が見にいったのは「入居時自立型」の「介護付き有料老人ホーム」。海の見えそうな施設が神奈川に数件あった。
神奈川の海は、東京から90分もあれば行けるので、茅ヶ崎、江の島、鎌倉は私のお決まりの散歩コースだった。コロナ禍前は2ヶ月に1度は行っていた。
ひさしぶりの遠出、懐かしい潮風。やはり海はいい。今回は、施設のある三浦半島まで足を延ばす。
結論から言うと、やすらぎの郷※は見つからなかった。海から離れたところに建っていたり、船着き場しか見えなかったり。窓から海を一望できるような施設はなかった。
※
そしてどこも老人と病人ばかりだ。杖をつく人、手押し車で歩く人、車椅子を押してもらう人。鼻にチューブを挿している人、ストレッチャーで運ばれていく人もいる。施設を回るうちに、気が滅入ってきた。
私は血圧がちょっと高いのと坐骨神経痛があるくらいで、体は元気なのだ。テニススクールにも週2回通っている。こんなところに入ったら一気に老け込んで、2度と出られなくなる。
私が見学しているのは「自立型有料老人ホーム」の施設。誰の手も借りず、みんな自立しているはずなのに、これが老人ホームの現実なのか?
70歳になるまで3度、ピースボートで旅をした。国際交流を目的として設立されたNGO団体ピースボートは、大型客船による世界1周クルーズを企画している。この乗客のなんと7割が60歳以上なのだ。だから「動く老人ホーム」とも呼ばれる船内では、お年寄りがやたらと目につく。
サークル活動も盛りだくさんで、絵画や書道、ヨガに太極拳、テニスや体操、ウクレレにフラダンス等々、カルチャーセンター顔負けのラインナップだ。
最大のイベントとなる大運動会はデッキに800人以上が集結し、玉入れ、ムカデ競走、綱引きなどが行われる。何が悲しくて「年寄りの運動会」を見なければならないのかと思うが、みんな一致団結していて楽しそうだ。
だから私は、老人ホームとはピースボートのようなものだと思い込んでいたのだ。
社交ダンスのサークルでは、数少ない男性参加者の奪い合いとなり、その愛憎劇が見ものだった。私も「聖書を読む会」で知り合った、孫のいる上品なご婦人と恋に落ちた。胸がドキドキした。70歳にもなってときめくとは思わなかった。
3ヶ月の航海で知り合った老人同士が、結婚したこともある。75歳の男性と70歳の女性が恋に落ちて、ささやかな結婚式を挙げた。
ピースボートもお年寄りだらけだったが、ほとんどの人は自分の足で歩いていた。ところがここはどうだ。手押し車、車椅子、ストレッチャー。老人と病人しかいない現実の老人ホームでは、「やすらぎの郷」のようなドラマは期待できそうにない。私はどこへ行けばよいのか。
入れるはずもないのに、「特養」こと公営の特別養護老人ホームにも見学に行ってみた。特養といってもピンキリなのだろうが、私が見た施設では3人が一部屋に寝かされていて、コロナ禍だというのにゴホゴホと咳き込んでいた。一時入居金ゼロで月7〜8万円で暮らせるというが、ただ死を待てと言われているようで、私には無理だと思った。











