王を“最も抑え込んだ投手”

板東にとって王は、後に世界記録を打ち立てる大打者である以前に、同じ時代にプロ入りした気の置けない友人だった。

その関係性は、マウンドと打席で向き合ったときも変わらなかったのかもしれない。

王との対戦成績は68打数14安打、3本塁打。打率2割6厘。四死球31、三振18。王と100打席以上対戦した投手は45人いるが、打率だけを見れば板東は王を最も抑え込んだ投手だった。その事実を伝えると、板東は意外そうに語った。

「ワンちゃんは僕から3本ホームランを打ったのを覚えていたねー。僕は1本しか覚えてない」

記憶に残っていたのは、大差がついた試合だった。

「大差がついたゲームで登板する予定がなかったのに、敗戦処理的な場面でマウンドに上がることになって、イヤイヤ投げて打たれた1本しか覚えてないな。でも、通算3本しか打たれてないっていうのはビックリしたねー」

写真はイメージです
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板東は王との対戦で、ある“奇策”も用いていた。

「ワンちゃんに山なりのフワーとしたスローボールを投げたのは僕が初めてなのよ」
後に、2人で寿司屋へ行った際、王からこう言われたという。

「板ちゃん、あんなの投げられたら無理やぞ」

王ほどの打者でもタイミングを外されるスローボールには手を焼いたらしい。

「それからあまり投げなかったですけど」

100打席近く対戦して、本塁打はわずか3本。板東自身は自らのプロ野球時代の記録について「何の関心もない」と語り、成績を誇ろうとはしなかった。それでも、同期の王との思い出を話すときだけは、表情が緩んだ。