時代と共に変わっていく「家族のかたち」

戸籍上まるで前妻が第一夫人かのように…再婚で気づいた矛盾。知らない人に個人情報が筒抜けになる制度の実態と変わる家族のカタチ_2

井田 選択的夫婦別姓実現に向けて活動をしていると「戸籍をなくしたいのか」と決めつけられがちなんですが、私は戸籍廃止論を訴えているわけじゃないんです。

西洋の事例を見ていると、家族に対する捉え方が日本とは違うなと思うところもあって、日本では時代に合わせて戸籍をアップデートしていく方法が最適解だと考えています。そのためにも選択的夫婦別姓を実現させたいんです。

戸籍という国民登録のあり方や、婚姻制度が大切ならなおさら、誰もが利用できる制度にしていくのは時代の要請です。戸籍だってコンビニで謄本が取得できたり、ふりがながついたり、仕様変更を繰り返していますよね?

それに比べたら、「戸籍上の氏名を変えない」という選択肢を一つ追加するのは軽微な規制緩和でしかありません。法律が変われば、「女性は男性の姓にならなければならない」という社会的圧力を軽減させることに繋がりますし、何より、自分で姓を選べるかどうかは人権の面から、すごく大きな前進です。

中村 私も日本に戸籍はあってもいいという立場です。これは「家制度」の話と分けて聞いてほしいのだけれど、個人主義が徹底している西洋と違い、日本人にとっては社会の基礎集団としての家族はとても大事なものなんですよね。

私自身、自分は個人主義者だと自認していたのに、イギリスで何年か生活する中で「個人主義って、そんなに甘いものじゃない、これは日本人には耐えられないだろう」と実感しました。そういう体験から、個人戸籍は日本には馴染まないと考えています。

要は戸籍が差別的でなければいいわけで、選択的夫婦別姓が可能になればそこはひとつクリアされますよね。「国民は皆、自由で平等であるべきだ」という近代国家の原則に照らし合わせれば、おっしゃるように自分で姓を自由に選べることがポイントです。

私は50年フェミニズムをやってきたけれど、結局それは自分の人生は自分で決めさせてくれという運動であって、その「自分で決める」ものの中に自分の姓も入っているということですね。

井田 それこそ市川房枝(*1)さんの時代から、私たちはずっと「自分で選ばせてくれ」と訴えているわけですよね。

「選ばせてくれ」ということでは、結婚や家族のかたちも同じです。自民党の改憲草案には「家族は、互いに助け合わなければならない」という文言が盛り込まれていますが、明治日本の家族イデオロギーを彷彿とさせるような動きのように思えます。それについて、先生はどうお考えですか?

中村 「家」や「家族」についての考え方は、その時代や社会のあり方に応じて変わってきて、これからもきっと変わっていくものなんですね。「家族」というと、皆が愛情で結ばれて仲良くやっているというイメージも強いけれど、そういう集団だけがイコール家族だという観念を変えていくことが、戸籍の問題を解決していくことと同じく必要だと思います。

今回の本の中で紹介しているフランスのパックス(連帯民事契約)は、いいヒントになるかもしれません。当初は、同性愛の人たちの結婚を正統化する話だと思っていたのですが、調べてみると、これは多様な家族のかたちを認めようという動きだとわかりました。

パックスの対象はカップルとは限らなくて、友人同士や近親者のふたり組もその範囲とされるという考え方もあります。つまり、性関係は必ずしも要件ではないわけです。

西洋において、結婚とは最初、神様によって決められるものでした。それが、近代に入ってからは国家が管轄するところとなり、今では当事者たちの自由意志による結合へと変容しつつあります。そうやって、歴史は動いているんですね。日本でも自治体レベルでパートナーシップ制度を利用できるところが出てきていますが、これも時代に合わせて多様な家族を認めていこうという流れなのだと思います。

井田 いろいろな家族のかたちはすでにあるし、あっていいんですよね。お互いに助け合いたい、この人は「家族だ」と思う相手を、もっと柔軟に認める仕組みが日本にもあればいいのに、と思います。

たとえば、私たち夫婦の母親たちは、それぞれ夫を亡くして一人暮らしをしているのですが、二人のように夫に先立たれた女性たちが「家族」として生活を共にできたら、一緒に散歩に行ったり、ご飯を食べたりして支え合うことができるでしょう。「あら、あなたちょっと認知症になりかけてきたんじゃない?」などと互いの些細な変化にも、すぐ気づけるかもしれません。

中村 それは、すごくいいですね。そういう家族のあり方は、独身女性が老後に備えて友人と共同生活を送りたいというケースにも当てはめられますし、ある種のコミュニティーという方法を採ることもできそうです。

井田 私が理事を務めているFamiee(ファミー)は、まさにそういう多様な家族のかたちが認められることを目指して活動している一般社団法人です。日本には、現在の法律では夫婦や親子として承認されないがゆえに、保険や福利厚生などさまざまな権利やサービスを受けられない関係の人たちが存在します。

Famieeは選択的夫婦別姓や同性婚の実現も求めつつ、そうした人々が実際に「家族」であるということを、ブロックチェーン技術を使って証明するサービスを行っています。本来は法的保障を平等に受けられる法改正が必要ですが、現状はパートナーシップ制度ですら地域によっては利用できないという問題もあり、Famieeのようなサービスや仕組みが広がっていくことで、「多様な家族はすでにいるのだ」という社会的認知の向上に繋がるのではないかと考えています。

中村 そうやって柔軟に家族のかたちを捉えていくことは、実は国家にとってもメリットがあるんです。従来の「夫婦」「家族」から弾かれてきた人たちが、共同体として正式に認知されることで安定的な集団となり、国家を支えていけるようになるわけですから。

井田 ただ、今の政治状況を見ていると、パックスやパートナーシップのようなものが権力者側に「結婚まがいの制度があるから十分だろう」として言い訳に使われ、それらを利用する人たちは「二級市民」的な扱いに据え置かれるのではないか、という心配が拭えません。

国民は皆平等であるという原理原則に立つならば、やはり選択的夫婦別姓や同性婚が先に実現されなければいけないと思います。フランスではパックスも含めて法的に認められているパートナーシップ制度が3つあるそうですが、家族のかたちに合わせて、誰もが自分で選択できることが大事ではないでしょうか。

戸籍上まるで前妻が第一夫人かのように…再婚で気づいた矛盾。知らない人に個人情報が筒抜けになる制度の実態と変わる家族のカタチ_3

中村 井田さんのように現実に活動をされている方がおっしゃるなら、きっとそうなのだろうと思います。運動としてはどれもやっていくことが必要で、共通するキーワードは「自由な結婚」ということですよね。

*1 1893~1981。婦人運動家・政治家。戦前から女性参政権をはじめとする女性の権利獲得を目指して活動し、1953年以降は参議院議員として活躍した。