「私の好きなあの人のシンボルだから」

そんな純な恋心が発端の事件に比べれば、最近の事件はもっとドライというか、非人情になっている。

金のためなら、大切にすべき人の命さえ簡単に奪ってしまう。いくつかの事件を除き、最近の女性が関与している事件にはそんな共通点がある。

力の強い男性でも、眠らせて無抵抗の状態にすればどうにでもできる。そんな悪い手法が世間に広まり、強欲な女性たちが悪びれず実行に移す。保険金詐欺を働くケースが増えているのはそのためだ。

昔の事件の場合、もちろん許すことなどとうていできることではないが、一方で何となく加害者の犯行にいたった気持ちも伝わってくる。しかし最近の事件は純情どころか、保険金殺人のごとく、お金に困ったのでもなく、豪遊するための大金欲しさに簡単に自分の夫など身近な人の命を奪うケースが多い。

阿部定も死体の一部を切り落とした残忍で恐ろしい女のように伝えられているが、実際、重罪とならなかったのは、その犯行理由が一途な恋にあったからだ。

「私の好きなあの人のシンボルだから」

過失で死なせてしまった愛する男の体の一部を常に持ち歩いていた阿部定の女心。

この事件は私たちに、「愛とは何か」をあらためて問いかけているようにも思えるのである。

男女間の愛は時に事件に発展することもある(写真はイメージ/shutterstock)
男女間の愛は時に事件に発展することもある(写真はイメージ/shutterstock)
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死体が伝える最後の想い
上野 正彦
死体が伝える最後の想い
2026/4/7
880円(税込)
248ページ
ISBN: 978-4022621276

布団の中で凍死してしまった老人の孤独、消せない指紋、殺された幼い子どもが最後に見た光景、サスペンスドラマのような結末、自分を盾にした母の愛――。

監察医として30年間、約2万体の死体を検死してきた著者が語る命の尊厳、生と死のドラマ。

『裏切られた死体』と『死体は切なく語る』から屈指のエピソードを選り抜いたベスト版。

【目次】
第1章 死体が残したメッセージ
第2章 切ない事件
第3章 人はここまで醜くもなる
第4章 フィクションとノンフィクション
第5章 やるせない真相
第6章 愛情の末に

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