切り落とした局部を手元に置いておいた阿部定

こういったプレー自体は、別に珍しいことではない。SM遊びから死にいたった変死事件をいくつか検死した。ただ一般に思われているようなSM専門店では、この手の事故は、私が知る限り起きたことはない。

SMプレーの果てに事件になるのは、みな一様に、素人ばかりである。プレーに本気になってしまった結果、歯止めが利かなくなってしまうのだろう。逆に言えば、SMプレーの店は、どんなに本気っぽくやっていても、しょせん商売なのだ。

男性の局部を切り落とした以外のことは、昔のことで、うろ覚えだったので、これをいい機会といろいろ調べてみた。

驚くべきは、男が亡くなった後の阿部定の行動である。

一般に、彼女は、「男性のシンボルを切り落とした性的異常な女」として知られている。私もそうだとばかり思ってきた。しかし、調べてみると、そうではない。もっと複雑に入り組んだ事件だったのだ。

なんと彼女は男の陰部、睾丸と陰茎をすべて刃物で切り取って、持ち帰っていたのである。すなわち、陰部を切り取っただけでなく、自分の手元に置いておいたのだ。

後に阿部定はそれを持ち歩いていたところを見つかり逮捕されることになる。彼女の懐から男の陰部が出てきたのだ。捕まえた警察官もさぞや驚いたことだろう。

当時、日本中がこの猟奇事件に騒然となった。どちらかと言えば、嫉妬で切り落とした残虐な女というイメージだったが、それもいささか趣が違う。

「これは誰にも渡したくなかったんです。私の大好きだったあの人のシンボルですから」

そう阿部定は思っていたという。

「誰にも渡したくなかった」阿部定の深い情愛(写真はイメージ/shutterstock)
「誰にも渡したくなかった」阿部定の深い情愛(写真はイメージ/shutterstock)