「全く繋がっていなかったものがたまたま繋がったりとかするんだ」
哲学研究者で思想家の内田樹が、大瀧詠一と交わしていた最後のメールには、奇しくも『お富さん』が出てくる。
大瀧さんからの最後のメールは、僕がニール・ヤングの「Till the Morning Comes」は春日八郎の「お富さん」と同じメロディーなのでは・・・と書いたことについてのものでした。ニール・ヤングはこの番組を見ていたのではという。(内田樹)
大瀧詠一が“この番組”と指摘したのは、ハワイ出身のジャズ・ビブラフォン奏者のアーサー・ライマンが、テレビに出演して演奏した『Otome-San(お富さん)』のことだ。それを観ると、確かにニール・ヤングの曲と『お富さん』が繋がっている感じがする。
くるりを率いる岸田繁は、そのニール・ヤングを自分のロックのルーツの一人として挙げている。
そしてニール・ヤングがセックス・ピストルズのジョニー・ロットンに言及し、カート・コバーンが遺書に引用したことでも有名な『マイマイ、ヘイヘイ』にインスパイアされて、『ヘイ! マイマイ!!』という曲も書いている。
古語の“まいまい”、すなわち、かたつむりを歌ったくるりの『ヘイ! マイマイ!!』は、なぜかオーストリアのウィーンで2007年にレコーディングが行われた。
『Liberty & Gravity』についても、岸田はウィーンに滞在していた時に作ったことを日記で明らかにしている。しかもなんの偶然か、かたつむりの写真付きだ。
岸田日記Ⅱ #7
お盆休み的なムードが街角に漂うなか、はっきりしない空模様と、凄まじい湿気にうんざりしながらも、夏が終わってしまうのは嫌だなぁと、毎年のように思う。「Liberty&Gravity」を書き上げたウィーンのホテル。てか、滞在中にアコギで夜中作ってた曲です。
岸田はさまざまな文化が交じり合うウィーンという都市について、日記の中で「アコーディオンやバンドネオンを使った街頭ミュージシャンが多く、イタリア系だったり東欧系だったり、トルコ系だったり,居酒屋は特に人種の坩堝である」と記している。
『Liberty & Gravity』は要所要所に、「よいしょっ!」という祭り囃子の合いの手やハンドクラップを多用し、懐かしい日本を感じさせつつも、強力なロック・ビートでドライブしながら組曲のように展開していく。
そこに岸田繁らしいセンチメンタリズムと、クールなラップまでも織り込んで、21世紀ならではの日本のビート・ソングが誕生した。
『Liberty & Gravity』という無国籍ハイブリッド・ポップには、あらゆる音楽と真面目に向き合ってきた岸田の個人的な音楽史が、これでもかとばかりに注ぎ込まれている。
世界中の、全く言語も文化も違う音楽に、少しでも何らかの感銘を受けた時、遺伝子レベルでの記憶や、全く繋がっていなかったものがたまたま繋がったりとかするんだ。遠く離れた国の、言葉もわからない音楽を聴いて、涙が溢れたり、笑い転げたりすることが楽しいんだよ。(岸田繁)
文/佐藤剛 編集/TAP the POP
参考・引用
追悼「大瀧詠一の系譜学」内田樹 目から鱗のナイアガラ














