環境破壊と国民負担の増大という二重の悲劇
この投機マネーは、適切なゾーニングや土地利用計画を欠いたまま、全国で「地上げラッシュ」を引き起こした。その結果、森林の乱伐、景観破壊、土砂災害リスクの増大といった深刻な環境問題が各地で頻発した。
これは太陽光発電そのものの問題ではなく、欠陥制度が引き起こした「乱開発」なのである。そして、この乱開発は、再生可能エネルギーに対する地域住民の不信感と強い反発を招く格好の材料となった。
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同時に、投機事業者が手にした過大な利益の原資は、国民の電気料金に上乗せされる「再エネ賦課金」である。制度開始から10年以上が経過した今なお、最初の3年間に認定された高価格の太陽光案件が、賦課金総額の5割以上を占めるという異常事態が続いている(図9‒3)。
もし仮に、買取価格を「発電開始時点」と定めていれば、国民負担は半減し、多くの自然破壊も回避できた可能性が高い。この制度設計ミスは、再生可能エネルギーに対する社会的な信頼を毀損し、その後の政策を歪める「原罪」となったのである。
この一連の流れは、単なる政策の失敗ではない。欠陥制度が環境破壊とコスト高騰を招き、それが国民の不信感を生む。そしてその不信感を、旧来の電力会社を中心とする既得権益層が「やはり再エネは問題だ」と政治的に利用し、自らの延命と再エネへのさらなる規制強化の口実とする。
これは、病巣(独占体制)が、本来あるべき治療薬(再エネ政策)を意図的に毒に変え、その毒性を理由に自らの必要性を訴えるという、極めて悪質な自己増殖的な悪循環なのである。
※Eiとは、「知性化された電力」を意味し、「電気(Electricity)×知性(intelligence〈人間+AI〉)」の重なりである。「エネルギー知性学」は、「エネルギー地政学」に対置される新しい考え方の枠組み。
文/飯田哲也 写真/shutterstock
Ei革命 エネルギー知性学への進化と日本の針路
飯田 哲也
2026/1/26
1,980円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4797674736
すでに始まっている文明史的エネルギー大転換の全体像。これは環境問題ではなく、世界の経済構造を根底から変えるパラダイムシフトである。
世界では、再生可能エネルギーと蓄電池のコスト革命ならびに指数関数的な成長が進み、課題は「電力不足」ではなく、“ありあまる電気”の活用へと移った。日本がとるべきは、中央集権インフラの延命ではない。鍵は 「Ei=Electricity (電気)× intelligence(知性〈人間+AI〉)」。化石燃料依存から、電気を賢くつくり・ためて・使う設計へ。本書は、世界中で出現しつつある「シン・オール電化社会」という新しいOSの姿を描き出し、企業・自治体・生活者が取るべき実装ステップを提示する、政策とビジネスの実践書である。
※本書でいう「エネルギー知性学」は、「エネルギー地政学」に対置される新しい考え方の枠組み。
【目次より抜粋】
はじめに 電気が足りない?――神話の解体と新しい現実
第1章 UAEコンセンサス――世界が合意した未来の設計図
第2章 バッテリー・ディケイド――エネルギーの新しいOS
第3章 カーマゲドン――自動車産業の創造的破壊
第4章 シン・オール電化の時代へ――新しいエネルギー文明の原理
第5章 21世紀の電力システム――硬直から柔軟へ
第6章 RE100への道筋――世界のトップランナーに学ぶ
第7章 「第7次エネルギー基本計画」の読み方――「真田丸」からGXまで
第8章 原子力に固執する「病」と「沼」――病理的政策への診断と処方箋
第9章 落後する日本――停滞の病理学
第10章 「ソーラーはお嫌いですか」――太陽光への批判的言説の検証
第11章 日本のエネルギー再生への処方箋
第12章 コミュニティパワーという希望――地域からの再創造
おわりに ありあまる電気――豊かさの再定義