病巣の解剖─ システム危機を物語る三つの重篤な症状
本章は、日本のエネルギーシステムを蝕む「病」の臨床的解剖を試みるものである。この国の停滞は、単一の政策の失敗や官僚の無能さに帰するものではない。
それは、旧態依然とした20世紀型のエネルギーパラダイムを死守しようとする強固な既得権益、すなわち「ネオ電力独占体制」が、制度設計、市場ルール、そして物理的な送配電網のすべてを支配し、イノベーションと民主主義を組織的に窒息させているという、根深く構造的な病理に起因している。ここでは、最も象徴的かつ破壊的な三つの症状を診断する。
症状1:誤処方された特効薬 ─致命的欠陥を抱えた固定価格買取制度(FIT)
日本の再生可能エネルギー政策が迷走を始めた直接的な原因は、2012年に導入された固定価格買取制度(FIT)の、世界でも類を見ない致命的な制度設計ミスにある。FIT制度そのものは「世界史で最も成功した環境エネルギー政策」と評価され、約90カ国が導入した実績を持つ。
FIT導入で最後発国であった日本には、先行諸国の成功と失敗から学ぶという唯一無二の利点があったはずだ。しかし、日本はその好機を活かすどころか、先行諸国のどこも採用しなかった「世界で唯一・最悪の失敗」を犯してしまった。
専門家を含む多くの人々が「初期の買取価格が高すぎた」と誤解しているが、これはFIT制度の本質を外している。初期の高価格はFIT制度の本質であり、真の問題は価格水準ではなく「価格決定のタイミング」を誤った点にある。
それは、買取価格を「発電開始時点」ではなく、「最初の認定時点」で固定してしまったことである。
この制度的欠陥が、その後の悲劇の連鎖を引き起こした。
投機的「ゴールドラッシュ」と「ゾンビ案件」の増殖
FIT制度の核心は、市場拡大と技術の学習効果のフィードバックによるコスト低減を促すことにある。太陽光パネルの価格が劇的に下落することは、当時から明白な事実であった。
にもかかわらず、日本版FITは、たとえば2012年度末までに書類を提出すれば、1kWhあたり40円(税別)という高額な買取価格を20年間保証した。
これにより、事業者は高い買取価格の権利だけを確保し、パネル価格が下がるのを待ってから建設に着手すれば、構造的に過大な「棚ぼた利益」を得られるという極めて歪んだインセンティブが生まれた。
結果、発電事業よりも権利の転売を目的とした投機的な事業者が市場に殺到し、認定だけ受けて実際には稼働しない「未稼働案件」が長年にわたりシステムを詰まらせる事態を招いた(図9‒2)。













