当たり前じゃない当たり前を可能にする2組
しかし、そんな狂乱の群雄割拠の中で、むしろ最も“異常”に映ったのは、常連組の安定感だった。
今年の決勝へ進んだ9組のうち、真空ジェシカ(5年連続5回目)とヤーレンズ(3年連続3回目)は、今のM-1を語る上で欠かせない存在になっている。初出場時から独自のスタイルを確立し、その後も毎年、当たり前のように準決勝・決勝へ上がっていく。
だが、“当たり前”ほどこの大会で信用ならないものはない。どれだけ実力があっても、少しのつまずき落ちてしまうのがM-1だ。昨今は特に“常連ほど不利”という構造が強まっている。M-1はインパクトと鮮度が求められるため、見慣れたコンビは評価が下がりやすい。実際、オズワルドは4年連続の決勝進出から一転、3年連続で決勝を逃し、今年は準決勝にも届かなかった。
本来なら、真空ジェシカもヤーレンズも、この波に飲み込まれてもおかしくなかった。それでも彼らは落ちない。その異様なまでの安定感が、今年の準決勝で一番強烈だった。
しかも新参勢が奇抜な設定や新機軸で勝負する中で、この二組の設定はじつにシンプル。真正面から笑いを取りにいく。それでいて、結果は常に上位。――この時代に“変わらない強さ”を保つことはが、むしろ異常だ。
混沌の時代において、“今年も確実に決勝へ進む”という事実こそ、とんでもないニュース性を持っている。安定していること自体が、今のM-1では突出した個性になりつつある。
真空ジェシカ、ヤーレンズは常に優勝争いの射程にいる。漫才界が激しく変化する中で、彼らだけが毎年のように結果を積み重ねている。これほど安定して結果を残すのは、単なる技巧や経験値では説明しきれない。才能をも超えた“何か”を持っているのではないか――そう思わせる異質さがある。













