台湾からも手放しで歓迎されていないという事実

ここで思い出さなければならないのは、日本政府は公式には台湾を「国」として認めていないという現実である。

もし「台湾という他国を守るために自衛隊を出す」という理屈を立ててしまえば、その瞬間に日本は「一つの中国」という日中関係の土台を自ら破壊することになる。それは中国との国交断絶、あるいは全面戦争を意味する。

「米軍が来る前提」ならアメリカに迷惑をかけ、「米軍が来ない前提」なら中国との関係が崩壊する。高市首相の発言は、どちらに転んでも日本が行き詰まるような、あまりにも浅はかな想定に基づいているのである。法律の条文が持つ意味の重さを、全く理解していないと言わざるを得ない。

台湾海峡(写真/shutterstock)
台湾海峡(写真/shutterstock)

さらに滑稽なのは、この発言が、守りたいはずの台湾からも手放しで歓迎されていないという事実だ。

確かに、台湾の一部の市民が「日本が助けてくれる」と無邪気に喜び、期待を寄せている側面はあるかもしれない。しかし、憲法上の制約がある以上、自衛隊が台湾防衛のために単独で海を渡ることなど絶対に不可能だ。

実現不可能な「ぬか喜び」をさせることは、いざという時に動けない日本への深い「失望」へと変わり、親日感情を傷つけることになりかねない。

相手が困るようなタイミングで大声を上げるのは友情ではない

現状、台湾ではアメリカと同じように直接的な言及は避けつつ、一部からは批判の声すら上がっている。それはなぜか。台湾の頼清徳政権は、中国との関係を極端に悪化させたくないと考えているのだ。

また、最大野党の国民党などは中国との対話を重視している。彼らにとって今一番必要なのは、目立たずに実力を蓄えることであり、中国を不必要に刺激することではない。これは日本も同じことだ。

そんな中で、日本の首相が「戦艦だ」「武力行使だ」と大声で騒ぐことは、中国に対して「日本と台湾が結託して攻撃しようとしている」という格好の口実を与えるだけだ。

外交における本当の友情や支援とは、相手の立場を深く理解し、静かに、しかし確実に連携することだ。相手が困るようなタイミングで大声を上げるのは、友情ではなく、単なる独りよがりな自己満足に過ぎない。相手国のニーズすら読み取れない人間に、国際政治を動かす資格はない。

以上の分析から明らかなように、高市首相の発言は、四方八方に「敵」と「混乱」を作り出した。